The Era of Specialized Intelligence : フィジカルAI時代の対応戦略|後編


本記事では、MakinaRocks CEOのAndre S. Yoon氏による、フィジカルAI時代の展望として産業を理解し行動する特化型AIのセミナーについてレポートします。前編では製造現場におけるAI適用の課題を中心にご紹介しました。

 

後編では、フィジカルAI実装の4つの柱を軸に、豊富な実際のユースケースを交えて具体的な取り組みとその成果をご紹介します。

 

前編記事はこちら

 

登壇者
Andre S. Yoon(MakinaRocks Co.,Ltd. CEO)



1. フィジカルAI実装の4つの柱


ここからは、完全自律製造に向けた私たちの道のりについてご紹介します。この道のりには「特化した知能」「デジタルツイン」「自立制御」「AI運用基盤」の4つの柱があります。


2. 特化型AI


まず、1つ目は、現場知識を学習した特化型AIです。先ほど説明したように、汎用AIは産業分野や専門知識などの経験が全くなく、大きな限界があります。そこで、特化させたAIの例をご紹介します。


ケース | タイヤパターン生成および性能評価システムの構築

最初の例は、タイヤパターンの設計を行うAIエージェントです。

AIを専門的に特化させることで、デザイナーの設計業務を実際に支援できるようにし、その結果、顧客はタイヤ設計にかかる時間を50%改善することができました。

 

(セミナーでは実際の設計パターンの生成を実演しながら説明しています)

 

このタイヤパターン生成AIでは、専門知識などを反映したパラメータを設置しています。設計者はまずこれらのパラメータを用いてベースラインとなるレイヤーを作成し、AIが提示する候補の中から最適なものを選択します。その後、AIはその上にレイヤーを重ねて、より複雑な構造へと発展させていくことができます。そうして、商用化できる水準になるまで、このプロセスを続けることができます。

 

それだけでなく、AIはタイヤと路面との摩擦など、性能に関する推定値を提供し、このタイヤ設計の性能もチェックできるのです。


ケース | AI基盤のスマート図面・文書検討

2つ目の例は、複雑なエンジニアリング図面を理解するエキスパートAIです。

 

このエージェントは、非常に複雑なエンジニアリング図面を理解し、従来は人間が行っていた作業を実行できます。例えば、2つの図面の違いを見つけたり、コストや見積を算出したり、類似したデザインを検索したりといった作業です。

 

そして、このAIエージェント活用により、お客様は年間1,000人時を削減しています。

その価値が明らかなため、当社はこのエージェントを製品「Drawex」として標準化しました。

(セミナーでは実際にDrawXの操作画面を投影しながら説明しています)

 

DrawXでは図面をアップロードすると、AIが図面を解析して、その内容やパラメータなどを把握します。これにより、先ほど述べたように、設計の比較やコスト見積、見積書の作成といったタスクを実行できるほか、その設計が製造可能かどうかの判断もできます。


3. デジタルツイン


次の柱は、フィジカルAIにとって不可欠なデジタルツインです。

ご存知のように、LLMのような基盤モデルは、WEB上のデータから知識を学習しますが、フィジカルAIは実際の物理システム(例えば産業用ロボットなど)をどのように操作、制御、監視するかを学ばなければなりません。

 

しかし、実際のシステムから学習するには時間がかかりすぎます。だからこそ、デジタルツインが必要なのです。デジタルツインを使えば、デジタルシステム上で膨大な数のトレーニングを行うことができるからです。

 

問題は、物理資産のデジタルツインを作成するのは極めて困難なことです。囲碁のようなゲームであれば簡単に作成できますが、たとえば半導体製造装置の場合、非常に複雑なプロセスやメカニズムが含まれているため、デジタルツインを作成するのはとても難しいのです。

 

物理ベースのシミュレーションを用いてこのプロセスを再現しようとする試みもあります。しかし、物理ベースのシミュレーションであっても、現実とシミュレーションの間にはギャップがあり、物理方程式に基づいた計算には時間がかかりすぎるため、AIが試行錯誤によって学習する用途には、通常あまり有用ではありません。

 

そこで、私たちのアプローチはAIシミュレーターを構築することです。具体的には、表面実装技術やエネルギー管理システム、各種プロセスなど、さまざまな機械から得られるデータを使用します。

これらの機械から生成されるデータをもとにAIを構築し、AIシミュレーターを作ります。

AIシミュレーターを構築すれば、そのシミュレーターを使ってAIエージェントを教育できます。私たちは長年の研究開発を通じて、このアプローチが非常に有効であることを証明してきましたので、いくつか例をお見せします。


ケース | 表面実装工程におけるチップ実装最適化

こちらはSMT、つまり表面実装技術と呼ばれる装置です。PCB上にさまざまな電子部品を配置し、組み立てるために使われます。

SMT装置の生産性は、2つの要因によって決まります。

1つは、装置の速度です。装置が高速であれば、部品を素早く配置できます。もう一つは、さまざまな電子部品を配置・組み立てるためのロジックです。装置の速度は限界に近づいているため、重要なのは、さまざまな電子部品を配置するためのロジックなのです。

 

そこで、私たちはAIを活用してこのロジックを改善しました。従来のプロセスでは通常、ルールベースのロジックやアルゴリズムが使用されていましたが、シミュレーターを構築した後、このシミュレーターを使ってAIに学習させ、より優れた配置アルゴリズムを導き出させました。

これにより、人間によるルール アルゴリズムとAIとの間に明確な違いがあることが示されました。長年アルゴリズムを改善してきた専門家がこの動画を見ると、その違いをすぐに見抜くのですが、専門家はAIが人間とは非常に異なる方法で部品を配置していることに興味を示しました。

 

例えばルールベースのアルゴリズムの場合、あるレベルに達するまでに10年以上かかりますが、AIの場合は、そのルールベースのアルゴリズムを超えるのにわずか3ヶ月ほどしかかかりませんでした。結果として、私たちはこのアルゴリズムの性能を7%向上させることができ、SMTの生産性改善に直結しています。


ケース | 焼却炉の自律運転制御および最適化

もう1つの例は、焼却炉の自律制御です。

焼却炉は、高温燃焼によってゴミや廃棄物をエネルギーに変換しますが、ゴミの組成は制御できないため、従来はこの焼却炉の操作は非常に困難でした。燃えやすいゴミもあれば、燃えにくいゴミもあるからです。

 

そのため、オペレーターは運転システムを監視し、発熱量に基づいて制御を行わなければなりません。また、環境規制があるため、燃焼によって発生する有害物質が一定の規制値を下回っているかどうかも監視する必要があり、非常に困難な操作なのです。

 

そこで、まずはお客様が収集したデータからAIシミュレーションを構築しました。そして、このシミュレーターと強化学習ベースのアルゴリズムを組み合わせることで、運転を完全に自動化できるようにしました。現在、この焼却炉は完全自律運転されており、人間のオペレーターは不要になっています。そして、人為的ミスがなくなったことで、エネルギー生産量が8%向上しました。


4.自律制御


さて、次の柱は自律制御ですが、ご覧の通り、自律制御とは本質的にAIエージェントのことです。AIエージェントが自律制御を担当し、特化した知能が認知や判断、意思決定を担い、実行はツールである機械そのものが担います。


ケース | 溶接作業と品質検査の統合により、非定型欠陥を分類

この例では、溶接と検査を同時に行える産業用ロボットを構築しました。重要な点は、ティーチングが一切不要だということです。

 

通常、新しい製品が入ってくると、ロボットに溶接方法を教え込み、溶接後に検査を行う必要があります。しかし、このロボットは3Dビジョンカメラを使って対象物を認識し、自律的に溶接を行い、同時に検査も行うため、異なる対象物であってもロボットに教える必要がありません。これが自律制御の一例です。

 

このゼロティーチング技術により、お客様は稼働率を以前よりはるかに向上させ、欠陥検出率は98%に達しました。


5.AI運用基盤


最後の柱となるAIの運用基盤であるオペレーティングシステムは、フィジカルAIにとって不可欠です。なぜなら、製造業におけるフィジカルAIでは予測メンテナンス用、ロボット制御用、欠陥検出用、など単一のAIエージェントだけでなく、複数のAIエージェントが必要になるからです。

そのため、さまざまなデータを接続し、その上にAIを構築し、さらにその基盤上でAIを運用できるベースラインインフラが必要になります。これは、PCにおけるMicrosoft Windowsや、iPhoneにおけるiOSのようなものですが、大きな違いは、このインフラが高度にカスタマイズされている点です。

 

顧客によっては10台のGPUを使用するケースもあれば、100台を使用するケースもあります。GPUは価格が急騰し、その需要もますます高まっているため、GPUを可能な限り効率的に活用するために、このオペレーティングシステムはGPUの使用管理も担うのです。

 

さらに、数百から数千もの異なるAIアプリケーションを構築でき、オペレーティングシステムがガバナンスやセキュリティなどを管理します。つまり、データを連携させ、データ分析や前処理を行い、AIモデルを構築し、バージョン管理を行い、AIやアプリケーションを運用することが可能になります。

最後に、私たちは、特化型AIを活用して業務の生産性を飛躍的に向上させることを目指しています。将来的には、この特化型AIエージェントの助けを借りて、人間が現在よりも100倍多くの仕事をこなせるようになるでしょう。

 

本日はどうもありがとうございました。