The Era of Specialized Intelligence : フィジカルAI時代の対応戦略|前編


2026年4月17日、MakinaRocks CEOのAndre S. Yoon氏を迎え、特化型AI(Specialized AI)が汎用モデルを超えて産業現場やフィジカルな世界へと拡張していく転換期を展望するセミナーを実施しました。

 

セミナーでは、産業を理解し行動する特化型AIエージェントが現場で高い生産性を生み出すプロセスを解説。実際の豊富なユースケースを通じて、フィジカルAI時代に向けた技術的・組織的対応戦略を紹介し、たくさんの方にご聴講いただきましたので、その模様をお伝えします。

 

登壇者
Andre S. Yoon(MakinaRocks Co.,Ltd. CEO)



1. AIの進化と注目すべき視点


本日は、「The Era of Specialized Intelligence : フィジカルAI時代の対応戦略」と題し、フィジカルAIに向けた企業の戦略的ロードマップについてご説明いたします。

 

まず、簡単に自己紹介をします。私は現在MakinaRocksのCEOを務めているAndre S. Yoonと申します。もともと物理学を専攻し、韓国のサムスン電子の半導体部門やSKテレコムで勤務した後、 2017年の後半に共同で会社を設立し、現在は韓国で大統領直属の国家AI戦略委員会の委員も務めています。

 

さて、本題に入りますがAIは指数関数的に進歩しています。ここで大事なのは、現状の能力を見るのではなく、その進化のスピードに注目すべきということです。

 

例えば、こちらの図のようにAIの能力を「作業時間」という時間軸で測ると、7か月ごとに倍増することが観察されています。矢印がある昨年の段階では、人間が1時間かける作業をAIが一定の精度で行えました。そして2026年には、2〜3時間分の作業を同じ精度で作業可能になると予測されています。

生成AIの動画やヒューマノイドを見ると、この進化の速さがより明確にわかります。特にヒューマノイドでは、Teslaの「Optimus」が2023年と比較して、わずか2年余りで大幅に進化しました。これはハードウェアの進化ではなくAIエージェントの進化によるもので、このようにAIは非常に速いスピードで進化しています。


2. AIエージェントとフィジカルAI


では、AIエージェントとは何でしょうか。AIエージェントとは、本質的に「ツールを使える知能」のことです。世界のテックリーダーたちは、AIエージェントの影響は非常に大きくなるだろうと予測しています。そして、このAIの力が物理世界へ広がるにつれて、フィジカルAIの重要性も増しています。

 

しかし、フィジカルAIの中核にあるのは、実はAIエージェント技術です。知能がツールを使うという点は同じですが、従来のGoogleやGmailのようなソフトウェアだけではなく、機械や装置、産業用ロボット、場合によっては兵器システムなど、物理的な実体を操作するのが特徴です。

フィジカルAIと聞いて、最初に思い浮かぶものは何でしょうか。

おそらく、ヒューマノイドや自動運転車だと思います。

 

しかし、私はフィジカルAIが最初に実現するのは、ヒューマノイドではなく、工場現場だと私は考えています。現在稼働している数千億台もの機械や設備などがまず知能化され、さらにすべての設備や機械が知能化すれば、最終的にはものづくりの方法そのものが一変することになるでしょう。

フィジカルAIの究極の目標は、「ダークファクトリー(無人工場)」のような完全自律型の製造を実現することです。AIが進化するにつれて、製造業で実現できることも指数関数的に広がっています。


3. 製造現場におけるAI適用の課題


先ほども述べたように、フィジカルAIの究極の目標は、製造を完全に自律化させることです。しかし、製造業にAIを適用することは、今現在でも非常に難しいのです。その主な理由は3つあると考えています。


汎用AIの限界

1つ目は、汎用AIの限界です。

 

現在の汎用AIは、例えばスタンフォード大学の卒業生並みの知識と知性を備えています。しかし、もしこのスタンフォード大学の卒業生が、実際の製造ラインや工場の現場に行ったら、すぐに仕事ができるでしょうか?その可能性は極めて低いでしょう。

 

みなさんもご存じのとおり、製造ラインや生産現場、あるいはオフィスの専門家たちは、長年の訓練を通じて専門性やドメイン知識を身につけています。問題は、この専門知識がどこにも文書化されておらず、彼らの経験の中にしか存在しないということです。

 

製造現場では、熟練者が持つ専門知識や暗黙知が必要です。汎用AIはウェブや書籍から学習できますが、現場特有の知識は持っていません。現場データでAIが特化されない限り、汎用AIはほとんど役に立たないのです。

たとえば、工場で必要とされる次のような質問をChatGPTに質問してみます。

「ある測定値が突然しきい値を超えて上昇した場合、どうすべきか?」

 

ChatGPTはこの質問に答えようとしています。しかし、この回答の最後を読むと、「関連する部署に問い合わせて、支援サービスを求めるように」と書かれています。つまり、汎用AIは専門家ではないと認めているのです。

 

汎用AIは現場を見たことも経験したこともなく、たとえ同じ機器であっても、生産ラインAで使われるのか生産ラインBで使われるのかによって、センサー値が持つ意味は大きく異なります。ですから、工場や現場で生成されたトレーニングデータによって汎用AIが特化しない限り、その能力は非常に限定的です。


高い正確性・緻密性の要求

製造では極めて高い精度が求められます。例えばタイヤ設計や複雑な図面解析では、AIが生成したものと専門家が作るものの間に微細な差異があり、AIだけでは完全に対応できません。

 

2つ目の理由は、製造や産業分野でのAIアプリケーションには、SNSで見かける動画や画像とは異なり、非常に高い精度と正確さが求められることです。たとえば、ChatGPTにタイヤのデザインを描かせると、それらしく見えるものが出てきます。左側がAIによるデザインで、右側が専門家による実際のデザインです。

私たちのような素人から見れば、かなり似ているように見えます。しかし、実際の設計には、私たちのような素人には理解できない専門知識が数多く含まれています。もう一つの例として、最近ではエージェント型文書解析が非常に優れた性能を発揮しています。データを理解し、文書を理解し、分析することも可能です。しかし、製造や産業用AIの応用においては、非常に複雑な図面や設計図などが関わってきます。AIがこの複雑な技術図面を理解できなければ、そのAIの能力は非常に限定的となってしまいます。


AI基盤の不足

最後の理由は、AIの基盤が欠如していることです。

AIの基盤とは、ITや組織のバックボーンのようなもので、データを結びつけ、文脈を与え、その上でAIを実行し、時間の経過とともにそのパフォーマンスを向上させるものです。私は組織の専門家ではありませんので、ここではアーキテクチャの基盤についてもう少しお話ししたいと思います。

 

アーキテクチャの基盤には、SCADAやMES、ERPなどからの企業データの連携が不可欠です。AIに真に洞察を得させ、業務を遂行させるためには、これらのデータを接続し、文脈を与える必要があります。

 

そして、企業向けAI基盤の欠如こそが、多くの企業のAIプロジェクトが、スケーラブルな本番環境レベルではなく、PoCレベルにとどまってしまう理由のひとつです。多くの場合、単発のシステムを構築することになり、そのシステムは改善されません。結局、その「その場限りのシステム」を使い続けることになります。だからこそ、企業にはAI基盤が必要なのです。


4. MakinaRocksの取り組み


ここで、MakinaRocksの取り組みについてご紹介させてください。私たちは、こうした課題を解決するため、エンタープライズAI OSを基盤とした高性能なフィジカルAIを提供しています。工場をはじめとした、多様で予測不可能な現実の環境でも実際に機能するAIを構築することが私たちの使命です。

これまでに、投資家から3,600万米ドルの資金を調達しています。投資家には、世界最大の半導体製造装置メーカーであるApplied Materials社や、SK、Hyundai、POSCOなど韓国の主要製造業コングロマリットのほぼすべてが含まれています。

 

当社は、CB InsightsのグローバルAI企業ランキング「AI100」に選出されており、2023年時点では製造業カテゴリーで唯一選出された企業となりました。現在は、来月5月(2026年4月時点)のIPOに向けて準備を進めています。

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