企業におけるステーブルコイン実務|後編


本記事では、日本企業がブロックチェーンをどのような事業インフラと捉え、どのような実務価値を実装しようとしているのかを紹介するセミナーをレポートします。前編では、「なぜ今、日本企業にとってJapan Open Chainという基盤が必要なのか」というインフラと法制度・市場環境の話を中心に紹介しました。

 

後編の本記事では、「国際送金」「グループ会社間の資金管理(財務DX)」「オンラインサービスへの決済組み込み」といった、より実践的なユースケースについて紹介します。


前編記事はこちら

 

登壇者
稲葉大明(日本ブロックチェーン基盤株式会社 代表取締役)
近藤秀和(G.U.Group(株) 代表取締役社長CEO/CTO/G.U.Technologies(株) 代表取締役/G.U.Technologies Global, Pte.Ltd. CEO)
栗栖義臣(株式会社はてな 代表取締役社長)



1.国際送金のユースケース


稲葉

具体的な活用例として、まず「国際送金」が挙げられます。従来の送金は複数の銀行を経由するため、コストと時間がかかりますが、ステーブルコインを使えば、支払い企業から受取企業のウォレットへダイレクトに送金が可能になります。

 

弊社自身の実経験ですが、海外イベントの出展料を支払う際、請求書に「USDCでいくら、支払い先のアドレスはこちら」と記載されるケースが殆どです。実際に銀行送金ではなくステーブルコインで決済したところ、中継銀行の手数料は不要になり、ネットワーク手数料も数十円程度。瞬時に相手に届いているのです。

 

栗栖

海外展開を検討する際、お金回りの手続きが複雑になるほど事業スピードは停滞してしまいます。そこがスムーズに解消されるというのは、経営の視点からも非常に魅力的ですね。

 

近藤

実務上の注意点として、送金先アドレスが本当に相手企業のものかをどう確認するかが重要になります。銀行口座と異なり名義情報が表示されないため、契約書にアドレスを明記する、代表者の確認を取るといった運用統制が必要です。請求書だけを鵜呑みにすると、担当者の個人アドレスに送金してしまい、そのまま退職されるといった詐欺リスクも考えられます。

 

さらに、少額のテスト送金を悪用した詐欺の例もあり、便利さの裏側にある運用統制の重要性を理解しておく必要があります。


2.グループ資金管理への展開


稲葉

次に、グローバルトレジャリー(グループ会社間の資金融通)への展開です。親会社と海外子会社の間で短期資金をやり取りする際、社内にもかかわらず都度SWIFT経由で銀行送金するのは非効率です。

 

ステーブルコインを活用すれば、グループ間で資金を機動的に移し、必要に応じて現地で法定通貨へ交換するという世界観が見えてきます。これは単なる支払い手段ではなく、通貨としての価値の保存も含めて、財務インフラになっていくということです。

 

私たちはこれを決済のDXにとどまらない、財務DXとしてのステーブルコインと捉えています。送金コストの削減だけでなく、流動性確保や余剰資金の運用といった財務全体の再設計につながるはずです。


3.オンラインサービスへの組み込み


稲葉

三つ目のユースケースは、オンライン決済への組み込みです。例えばオーダーメイド商品の販売などで、仕様確定後に個別請求を行う場合、従来はメールで案内し、ユーザーが別の決済手段で支払うのを待つ必要がありました。

 

これに対し、ステーブルコインであれば、「請求」を発行し、顧客が承認するとすぐ着金が確認できるため、手続きがより円滑になります。将来的には請求情報や貿易書類などもオンチェーン化されれば、法人取引もさらに効率化していく可能性があります。

 

栗栖

自社の事業を踏まえると、決済手段の多様化は、ユーザーにとってもメリットがあると感じます。弊社(はてな)でも、コンビニ決済やクレジットカード決済だけでなく、コンビニ決済や銀行振込などPayPay決済といった手段を増やすことで利用者の利便性が高まってきました。その延長線上にステーブルコインを位置づけています。

 

また、個人向けサービスとの接点として、投げ銭のようなユーザー間送金への応用もあると考えています。検討しています。「いいコンテンツ書いてくれてをありがとう、おもしろかった」といったメッセージを添えて送金する投げ銭を送るシーンに、ステーブルコインが利用されていく組み込まれるかもしれません。


4.資金の流れを組み直す発想


稲葉

セッションの後半では、ステーブルコインは早い送金、安い送金だけじゃなくて、資金の流れをデジタル全体で組み直すためのものだと改めて整理しました。これまで紹介した国際送金、財務DX、オンライン決済はいずれも、既存業務の一部を置き換えるのではなく、業務設計そのものを見直す契機として捉えることができます。

 

栗栖

バリデータとしてはJOCの利用例を増やしたいという立場ですが、法人間の取引において自社に対しての支払いをステーブルコインで行えるようにする自社でもまずはそのうちの会社が受け付けます、みたいなところをどのような導入が可能か、受け入れ側になる可能性を社内で具体的に検討しています。

 

近藤

普及の起点としては、デジタル現金としての性質と、圧倒的な手数料削減効果が挙げられます。企業規模によっては銀行手数料が大きなコストになっているため、それが数万円、数千円単位まで下がるなら、導入インセンティブは十分と言えるでしょう。そして大企業が使い始めれば、受け取る側も自然に対応せざるを得なくなると考えています。


5.おわりに


本セミナーでお伝えしたのは、ブロックチェーンを単なる「先端技術」ではなく、日本企業が安心して活用できる「実用的なビジネスインフラ」として捉える視点です。Japan Open Chain(JOC)は、運営主体の透明性と日本法への準拠を軸に、高い処理性能とEthereum互換性を両立させることで、企業がこれまで直面してきた会計・法務上のハードル解消を目指しています。

 

もはや「できない理由」を探す段階ではなく、実務にどう組み込むかという実装のフェーズに入っています。ステーブルコインを「財務DX」として位置づけ、資金の流れそのものをデジタル前提で再定義する。この変革が、日本企業の事業スピードを加速させ、新たな価値を創出する起点となることを期待しています。