企業におけるステーブルコイン実務|前編
2026年4月17日、日本企業がブロックチェーンをどのような事業インフラと捉え、どのような実務価値を実装しようとしているのかを紹介するセミナーを実施しました。
セミナーでは、Japan Open Chain(JOC)を例に挙げながら、単なる技術性能の話にとどまらず、運営主体の不透明なネットワークから脱却し、ガバナンスやコンプライアンスを重視した「企業が安心して使えるパブリックチェーン」へと転換することの重要性を解説しました。さらに、国際送金やグループ資金融通を効率化する「財務DX」、そしてその鍵となる円建てステーブルコインの具体的な活用事例についても触れ、多くの方にご聴講いただきましたので、その模様をお伝えします。
登壇者
稲葉大明(日本ブロックチェーン基盤株式会社 代表取締役)
近藤秀和(G.U.Group(株) 代表取締役CEO/CTO/G.U.Technologies(株) 代表取締役/G.U.Technologies Global, Pte.Ltd. CEO)
栗栖義臣(株式会社はてな 代表取締役社長)
1. 日本企業が運営する安心安全のブロックチェーン
稲葉
今回のテーマは「企業におけるステーブルコイン実務」です。ブロックチェーンのユースケースが金融領域へとシフトしている現状を踏まえ、まず議論の前提となるJapan Open Chainの考え方について共有します。
JOCは、日本企業が運営する、実用性を重視したEthereum完全互換(レイヤー1)のパブリックチェーンです。企業がブロックチェーンを使った新規事業を検討する際、単なる技術性能だけでなく、ガバナンスやコンプライアンス、そして「運営主体の明確さ」が極めて重要になります。
特に重視しているのは、不特定多数の匿名参加者によって構成されるブロックチェーンネットワークではなく、信頼ある企業が「私たちが運営しています」と実名を公表して共同運営する点です。ブロックチェーンの“分散性”を維持しつつ、企業利用に耐えうる“運営の透明化(見える化)”を価値として打ち出しているのが、JOCの特徴です。
近藤
海外のイベントに参加すると、日本への関心は非常に高く、「サトシ・ナカモト」が日本人名であることもあって「日本に関わることをとにかくやりたい」という声を多く聞きます。しかし、実情として、日本人が主導する世界水準のサービスは、まだ少ないのが現状でした。その中で、JOCは“日本の企業連合が実際に運営するブロックチェーン”として海外からも高い信頼が寄せられています。
2. ビジネス利用に特化したJapan Open Chain
JOCの主な特徴として、以下の5点を挙げています。
- Ethereum完全互換
- 高速・安価(1,000~2,000tps)
- 日本法準拠の強固なガバナンス
- 手数料コイン(JOCコイン)上場済み
- ステーブルコイン発行予定
稲葉
トランザクション処理性能を示すTPS(Transaction Per Second)について、現在のEthereumは1秒間に10~12件程であるのに対し、JOCは1,000から2,000を十分に実現しています。これは、VISAカードやPayPay、全銀ネットといった既存の決済・送金インフラに匹敵する水準です。
また、日本法準拠という点も重要です。企業が事業として利用する以上、法的観点からどの法令に準拠し、どのような方針で運営されているのかを明確にすることは非常に重要です。技術だけでなく、準拠法や責任の所在が見えることが、企業導入の前提条件になると考えています。
JOCは日本国内の複数企業による共同運営体制をとっており、本日ご参加いただいている、はてな様の他、電通、など、14の多様なプレイヤーがバリデータとして参加していることも、JOCの実装志向を裏付けています。
3. 50兆円規模へ、ステーブルコイン市場の急拡大
稲葉
続いて、市場環境についてです。現在のステーブルコイン市場は、時価総額で50兆円に到達しています。その中心はUSDTやUSDCであり、現時点ではほとんどが米ドルベースです。
一方、円建てについては、JPYCの流通額がいまだ数億円規模にとどまっており、ドル建てとの開きが大きいのが実状です。もしドル中心のデジタル通貨市場がこのまま定着してしまえば、他の通貨が入り込む余地がなくなる懸念があります。
近藤
日本は法制度の整備では先行していましたが、事業として世界をリードできているかと言えば、まだ厳しいのが実感です。アメリカでは現在、ステーブルコインをめぐって銀行業界とクリプト業界の対立が激しく、特に「利息付与の是非」が大きな争点になっています。こうした世界情勢を注視する必要があります。
稲葉
前年同時期には約32兆円だった市場規模が、わずか1年で50兆円まで増えているという事実は、全体のトレンドとして、もはや無視できない潮流となっています。この数字の増加そのものが、企業にとって“見て見ぬふりのできないテーマ”になっていることを示しています。
4. 日本企業の実務に「円建て」ステーブルコインが必要な理由
稲葉
ここからは、日本企業にとっての実務的な論点に移ります。世界の主流がドル建てステーブルコインであることは事実ですが、日本企業がそのままUSDCやUSDTを導入するには会計や税務、法務上のハードルが非常に高くなります。
そのため、国内企業が円滑に資金流通や送金を行っていくためには、「円建てが必須になるだろう」というのが私たちの基本認識です。会計処理、請求、価格表示、そして社内決裁といった実務のあらゆる局面において、円建てであれば既存の商慣習に適合しやすく、導入障壁を大きく下げられます。
また、ステーブルコインの価値は海外送金だけに限定されません。完全に社内DXの文脈でも生きてくるのです。国内限定の企業であっても、決済や資金管理の見直しに活用できる可能性があります。
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