プロンプトエンジニアリングとは?企業での必要性や人材の育成方法を紹介

ChatGPTなどの生成AIを自社業務に活用する企業が増えてきており、プロンプトの重要性も高まっています。
プロンプトエンジニアリングやプロンプトエンジニア人材は、生成AIの活用場面が広がってきた今、企業には欠かせない存在とも言えるでしょう。

 

そこで本記事では、プロンプトエンジニアリングの基礎やメリット、具体的なプロンプト手法、プロンプトエンジニアリングを活用した企業事例などを紹介します。


▶記事監修者:髙橋 和馬氏
IKIGAI lab.オーナー/富士フイルムビジネスイノベーション株式会社

生成AI社内推進者や実践者が集まるコミュニティ「IKIGAI lab.」のオーナー。NewsPicksトピックスをはじめ、インプレスThinkIT、こどもとITで生成AI記事を連載。その知見をもとにイベント開催や企業での講演実績も多数。社内では海外工場で新商品立ち上げや人材育成に加え、生成AIを活用した営業プロセスや製造業の業務改革に着手。



プロンプトエンジニアリングとは?

プロンプトエンジニアリングは、生成AIと呼ばれる大規模言語モデルに対して、どのように指示を与えれば目的に合致する出力を得られるかを体系的に考える技術です。

 

一般的なプログラム開発におけるコーディングのように、コードの文法や構文を厳密に扱うわけではないものの、入力する文章の構成やトーン、文脈の設定によってAIの応答が大きく変わることが特徴となっています。

 

製造業や金融、小売など、さまざまな産業分野で生成AI活用/AI活用が進む理由としては、現場で必要とされる情報や分析結果をスピーディーに得られることが挙げられます。

 

たとえば、製造ラインの不良率改善に関するデータ分析や、金融商品のリスク評価に関する迅速なレポーティングを、人間が手作業ですべて行うのは時間と手間がかかります。

 

そこで、プロンプトエンジニアリングを駆使して、生成AIに効率的かつ正確な指示を与えることで、これらの課題を解決するスピードが大幅に向上します。  


プロンプトエンジニアリングの役割

プロンプトエンジニアリングの役割は、生成AIの潜在能力を最大限に活かすために「どのような文章を入力すれば適切な応答を得られるのか」をデザインする点にあります。

 

AIモデルの性能をそのまま享受しても、必ずしも最適な回答が得られるとは限りません。

 

ユーザーの意図や課題を踏まえてプロンプトを巧みに調整する必要があるため、プロンプトエンジニアにはコミュニケーションと論理的思考、さらにAIリテラシーの三つがバランスよく求められます。

 

具体的には、製品に関する問い合わせを想定し、AIが答えやすい形で質問内容を区切ったり、箇条書きで説明を求めたりといった施策を行うことが挙げられます。これにより、生成AIが回答を導き出す経路を明確化し、曖昧な解釈を減らすことが可能となります。

 

人間が欲する情報をAIに誤解なく伝える懸け橋として、プロンプトエンジニアは不可欠な存在と言えるでしょう。


ChatGPTなど生成AIとの関係

ChatGPTをはじめとした大規模言語モデルは、人間との対話を通じて知識や情報を提供したり、新しいアイデアを創出したりする優れたパートナーです。

 

しかし、その性能を最大限に引き出すには、プロンプトエンジニアリングが欠かせません。理由として、AIに指示した内容次第で、回答の的確さや深さが大きく変動するためです。

 

曖昧な質問を投げかけると、AIは曖昧な回答を返すため、一般論や自分の想定とは異なる方向性の回答が得られる可能性があります。

 

また、システムメッセージやユーザーメッセージの使い分けを適切に行うことで、コード生成やマーケティング用の提案資料作成など、多種多様な業務において高付加価値のアウトプットを得られます。

 

たとえば、マーケティング担当者が新製品のキャンペーンコピーを作る場合、ターゲット層や価値提案などを具体的に盛り込んだプロンプトを提示することで、より精度の高いアイデアが引き出せます。

 

一方で、ITエンジニアがコード自動生成を依頼する際には、プログラミング言語やフレームワークの指定に加え、例外処理や最適化要件などもプロンプトに含めることで、生産性を飛躍的に高めることができます。

 

こうしたプロンプトの工夫を行うのがプロンプトエンジニアの仕事であり、ChatGPTといった生成AIを導入する際には必須のスキルといえるでしょう。


なぜプロンプトエンジニアリングが今必要なのか

近年、生成AI技術は急速に普及しており、これまで手動で行ってきた分析やコンテンツ作成に関しても、AIの力を活用できるシーンが拡大しています。

 

このトレンドを裏付けるように、2024年時点で生成AIを本格的に導入する企業が42.7%を超えるとの調査結果も公表されるなど、導入の勢いは止まりません。

 

しかし、いくら高度なAIを導入しても、使用する側の知識や運用体制が不十分だと、結果が期待に及ばないことが少なくありません。

 

そこで重要性を増しているのがプロンプトエンジニアリングであり、このスキルを持つ人材の存在意義が高まっています。

 

また、プロンプトエンジニアリングが必要とされる理由として、以下のことが挙げられます。

●   生成AI普及により需要が増加する
●   ビジネスの競争力を高められる
●   人材不足へ対応できる

 

プロンプトの組み立てが成功すれば、AIが想定通り、あるいはそれ以上のクオリティで回答を返す可能性が上がり、企業の競争力を一気に高められます。

 

今はまさに、AIの性能と人間の創意工夫を掛け合わせて成果を最大化する時期に差し掛かっていると言えるでしょう。

 

参考:総務省「令和6年版情報通信白書 第I部」


生成AI普及により需要が増加する

生成AIの導入が進む背景には、各国の企業が抱える多様な課題を早期解決するための手段として期待が寄せられていることが挙げられます。

 

医療分野では、膨大なカルテ情報のテキストマイニングや画像解析により診断支援を強化し、金融業界では顧客データからリスク分析や不正検出を行うなど、専門性の高い分野にもAIが入り込んできました。

 

このように幅広い領域においてAIが活躍の場を拡大していく一方、それに伴い「適切なプロンプト設計が不可欠」という認識も高まり、プロンプトエンジニアの重要度が急速に上昇しています。

 

実際に、企業が生成AIの実力を最大限に引き出すには、ターゲットとなる業務内容を熟知し、それを踏まえたうえでAIに最適な質問や命令を与えるスキルが求められます。

 

こうした専門性は一朝一夕では身につかず、人材育成や教育制度の整備が急務となっています。

 

さらに、AI導入率の伸びに比例して、プロンプト設計の高度化や応用領域も広がっているため、これから先もエンジニアだけでなく幅広い職種において「プロンプトエンジニアリングを理解できる人材」の需要が右肩上がりで増加すると考えられます。


ビジネスの競争力を高められる

プロンプトエンジニアリングを活用すれば、企業が抱える多くのプロセスを効率化できるだけでなく、独自の価値を生み出しやすくなります。

 

特にコンテンツ制作の場面では、文章生成やアイデア創出をAIに任せることで、人間の担当者はクリエイティブな部分や戦略的な判断に集中することが可能になります。

 

また、マーケティング領域では大規模言語モデルを活用して顧客データを解析し、より的確なターゲット選定やパーソナライズド施策を素早く打ち出せるため、競合に先んじた攻めの戦略を展開できます。

 

このように成果の向上に直結する利点がある一方で、AIが出力した結果が正しいかどうかを検証し、修正ポイントをフィードバックできるプロンプトエンジニアが必要となる点も見逃せません。

 

誤った情報が含まれている場合に早期に気づき、プロンプトや設定を微調整することでリスクを抑え、企業のブランドイメージやビジネス成果を安定的に高めることができます。

 

さらに、生成AIによるアイデア創出と人間の知見を融合することで、新しい製品やサービス開発のサイクルを従来よりも短縮できるため、イノベーション促進にもつながります。

 

こうした効果の累積が、ビジネスの競争力を包括的に底上げしてくれるでしょう。


人材不足へ対応できる

急速な少子高齢化やグローバル競争の激化に伴い、人材不足が深刻化している企業は少なくありません。このような環境下で、プロンプトエンジニアリングを取り入れる意義は大きいといえます。

 

たとえば、日常的に行われているルーチンワークを生成AIに任せることができれば、人手を必要とする領域を絞り、人材配置を最適化することが可能になります。

 

とりわけ中小企業では、新たな人員を雇用するコストを抑えつつ、競争力を維持しなければならないケースが多く、AI活用による作業効率アップがビジネス存続の鍵となる場合があります。

 

そこで、ベテラン社員の暗黙知をプロンプト化し、組織全体で共有する仕組みを整えれば、経験やノウハウを次の世代に短期間で継承できる利点も大きいです。結果として、退職や配置転換があっても業務知識が途切れにくくなり、企業としての生産性が安定します。

 

プロンプトエンジニアがいることで、そのノウハウの引き出し方やAIとの連携のとり方を体系化し、人材不足の悩みに対処できる可能性が高まります。

 

このように、限りある人手をうまく回す戦略としても、プロンプトエンジニアリングは非常に有効です。


プロンプトエンジニアリングのメリット

プロンプトエンジニアリングを実践することで得られるメリットは多岐にわたります。主なメリットとして、以下のことが挙げられます。

●   問題解決の迅速化
●   業務効率化とコスト削減
●   顧客体験の向上
●   イノベーションの推進
●   企業の柔軟性と適応力が向上

 

これらの効果は個別に作用するだけでなく、相互に関連し合うことで、企業全体の収益力やイノベーション創出力が高まり、持続的な成長につながるでしょう。

 

プロンプトエンジニアリングが組織の変革能力を高めることで、企業が生成AIのような新しいプラットフォームを導入した際にも、段階的な実装と効果測定が可能となり、組織全体のデジタル変革をスムーズに推進できます。


問題解決の迅速化

通常、社内の課題や顧客からの質問に対しては、担当者が情報を精査し、必要に応じて他部署との連携を図りながら回答を準備します。

 

しかし、問題が複雑化すると、対応に時間がかかってしまい顧客満足度が下がる要因にもなります。

 

そこで、プロンプトエンジニアリングを使い、生成AIに対して的確な質問をすることで、即座に論点を整理して回答案を得ることが可能です。特に、回答のクオリティを左右するのは、質問の仕方と必要な情報をどう指定するかというプロンプトの設計です。

 

誤った指示をすればAIから的外れな回答が返ってくる場合がありますが、あらかじめバリエーション豊富なプロンプトを用意しておけば、スピーディーに問題を分析し、要点を捉えた提案を得られるでしょう。

 

たとえば、カスタマーサポートの問い合わせにおいては、ユーザーのトラブル発生状況や環境を詳細に盛り込んだプロンプトを用意し、AIからすぐに解決手順を抽出すれば、オペレーターはそれを参考に迅速な対応を行えます。

 

結果として、より少ない工数で高品質なサポートを提供することができます。


業務効率化とコスト削減

定型的な手続きやデータ入力作業を人間が行う場合、疲労やヒューマンエラーが発生するリスクが否めません。一方、プロンプトエンジニアリングによって生成AIを最適に活用すれば、これらの反復作業を大幅に自動化でき、人的コストの削減につなげることが可能です。

 

たとえば、経理部門での請求書処理や、顧客情報の分析などは、従来のAIと生成AIを適切に組み合わせることで大量のデータを効率よく扱えるようになります。さらに、AIは学習を重ねるほど精度が向上し、将来的にはより複雑なタスクにも対応できるようになります。

 

その結果、担当者は戦略立案や新たな企画の創造など、付加価値の高い業務にリソースを振り向けることが可能になるでしょう。

 

また、企業によっては外注していた作業を内製化する動きも出てきています。プロンプトエンジニアが社内にいることで、AIに関する微細なカスタマイズがすばやく行え、外部委託にかかるコストを削減することができます。


顧客体験の向上

近年、ビジネスにおいて顧客体験(CX)の質が企業の存続を左右するとまで言われるようになりました。そのため、多くの企業がカスタマージャーニーの各接点で高度なサービスを提供する方法を模索しています。

 

プロンプトエンジニアリングを活用すると、顧客の購買履歴や行動データを踏まえたきめ細かなアドバイスや商品提案をAIに任せることが可能となり、一人ひとりに最適化された接客が実現しやすくなります。

 

チャットボットによる問い合わせ対応でも、詳細なプロンプトを設計しておけば、AIが顧客の意図をくみ取りやすくなり、誤解の少ない回答につながります。これらの取り組みにより、顧客が余計なストレスを感じることなくスムーズに欲しい情報を得られるため、企業に対する好感度や信頼度が高まるでしょう。

 

特に、リアルタイムのキャンペーン案内やメルマガ配信などでは、ターゲットごとにプロンプトを微調整しながら、より精度の高い提案が行えるのが大きな利点です。

 

結果的に、顧客のニーズと企業のサービスがマッチし、満足度向上とリピート率の上昇を期待できます。


イノベーションの推進

ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、新しいアイデアを迅速に生み出し、市場に投入する力が企業の将来を左右します。

 

プロンプトエンジニアリングを導入すると、膨大なデータを手がかりにして生成AIが分析や発想支援を行うため、従来では考えつかなかった視点からイノベーションが生まれる可能性が広がります。

 

たとえば、新規事業のアイデア出しの段階で、AIに対して多角的な視点を盛り込んだプロンプトを投げかけることで、潜在的な顧客ニーズやトレンドを洗い出すことが可能です。

 

また、研究開発チームでは、技術的な課題を細分化してプロンプトとして提示することで、それぞれの解決策を手早く検討できるため、意思決定のスピードも高まります。

 

さらに、市場に対してプロトタイプをテストするときにも、消費者のフィードバック分析にAIを活用し、リリース前の問題点を素早く洗い出すことができます。

 

こうした繰り返しの改善プロセスが効率化されることで、革新的な製品やサービスをより早く世に送り出し、競争力を維持することができるでしょう。


企業の柔軟性と適応力が向上

現代のビジネス環境は予測が難しく、新たな競合や技術革新に対応するためには、常に組織をアップデートし続ける必要があります。

 

このような状況下で、プロンプトエンジニアリングを活用すれば、既存の生成AIをさまざまな部門や業務に横断的に応用しやすくなり、企業全体としての柔軟性が増します。

 

たとえば、営業部門では顧客ごとのニーズに合わせた提案資料を素早く生成し、商品開発部門では社内外のデータを掛け合わせて検証を進めるといった具合に、AI活用の幅が広がります。

 

さらに、市場状況や顧客ニーズに合わせてプロンプトの設計を随時見直し、AIの出力を常に最新の条件に適応させることで、環境変化へのレスポンスも早まります。

 

企業規模が大きくなるほど複数の部門が連携する必要があるため、一貫性のあるプロンプト設計を行いながら、部門間のデータ共有をスムーズにすることが重要です。その結果、組織内で発生するコミュニケーションロスが減少し、意思決定のスピードと精度が高まるという好循環を生み出すことが可能となるでしょう。


プロンプトエンジニアリングの具体的な手法

プロンプトエンジニアリングにはいくつものアプローチが存在し、どの方法を使うかはタスクの特性や企業の目的によって異なります。

 

以下は、代表的なプロンプトエンジニアリングの手法です。

●   Zero-shotプロンプティング
●   Few-shotプロンプティング
●   Chain-of-Thoughtプロンプティング
●   Self-Consistency(自己整合性)
●   Tree of Thoughtsプロンプティング
●   ReActプロンプティング
●   知識生成プロンプティング

 

こうした手法の違いを把握しておくと、社内のさまざまな場面で生成AIをカスタマイズできるようになり、結果として広い範囲の課題解決が期待できます。

 

自社の目標や課題に照らし合わせ、これらの技法をうまく選択・組み合わせることが、プロンプトエンジニアリング成功のポイントになるでしょう。


Zero-shotプロンプティング

Zero-shotプロンプティングは、あえて追加の例やコンテキストを与えずにシンプルな質問や指示をAIへ投げかけ、その回答を観察するアプローチです。

 

たとえば「このデータセットから顧客満足度のトレンドを説明してほしい」と一文でリクエストするイメージです。

 

利点としては、事前に学習させる例が不要なため、手軽に試しやすいことが挙げられます。

また、プロンプトが短いほど、素早く大まかな傾向をつかみたいときにも重宝します。

 

ただし、複雑な分析が必要なタスクでは対応が難しく、表面的な回答になりやすいという課題があります。そのため、詳しい情報を扱う業務や高精度が求められる場面では、Few-shotや他の手法と組み合わせる工夫が必要です。

 

企業としてZero-shotプロンプティングを活用する際は、まずはテスト的にシンプルな問い合わせを多用し、その結果を踏まえてプロンプトの追加要素を検討するのが効果的です。こうした段階的な導入プロセスを踏めば、エンジニアや現場担当者もAIとのコミュニケーションパターンを把握しやすく、将来的な高度活用にスムーズに移行できます。


Few-shotプロンプティング

Few-shotプロンプティングは、プロンプトの中に具体的な例文やデータサンプルを少しだけ含めることで、AIの回答精度を向上させる手法です。

 

たとえば「このような形式で回答してください」とサンプル文を数行提供すると、AIがより的確なトーンやスタイルを踏襲して出力を生成できます。これにより、単なる概念レベルの指示よりも、実際の業務現場で使いやすい成果物を得やすくなります。

 

未経験のタスクにも有効で、たとえばレポート作成において目次や書き方の見本を複数提示すれば、AIが自動的に文書の骨格を整えることが可能です。

 

一方で、例を多く盛りすぎるとプロンプトが長文化し、使い方にはバランス感覚が必要です。

 

企業においては、社内文書の書式や報告書のテンプレートなどをFew-shotで示す事例が増えており、誰が作成しても均質な品質の文書を短時間で完成できる環境を構築できます。

 

こうした取り組みは、専門知識が浅いメンバーでも一定水準以上のアウトプットを出せるようになるため、チーム全体の生産性を底上げする効果が期待できます。


Chain-of-Thoughtプロンプティング

Chain-of-Thoughtプロンプティングは、AIが複雑な推論を行う際に役立つ方法で、プロンプトの中に思考の手順やステップを組み込むという特徴があります。AIの内部プロセスを明示的にガイドできるため、回答に一貫性が生まれやすくなり、誤解や曖昧さを減らす効果があります。

 

企業での活用例としては、市場分析や競合調査など多層的な視点が必要とされるタスクが挙げられます。

 

Chain-of-Thoughtプロンプティングを使用すると、AIが中間結果を丁寧に確認しながら最終結論に到達するため、より論理的で裏付けのしっかりした提案が得られます。

 

さらに、この手法は高精度が求められる分野、たとえば製品の品質解析やリスクマネジメントなどにも効果的です。ただし、プロンプトが複雑化しがちなため、実装やメンテナンスにある程度の学習コストがかかる点には留意が必要です。


Self-Consistency(自己整合性)

Self-Consistencyのテクニックは、同じプロンプトで複数回AIに回答させ、その中からもっとも整合性が高いものを選択する手法です。

 

大規模言語モデルは確率的に文章を生成するため、同じ質問でも多少異なる出力が返ってくることがあります。そこで、回答を比較検討し、一貫した論理や事実関係が取れているかを確認することで、最適な結論を導き出せる仕組みです。

 

たとえば、法務文書や契約書の草案をAIに作成させるときには、ほんの少しの言い回しや条件の違いが重大な影響を及ぼす可能性があります。そこで、Self-Consistencyを実践すれば、複数案の相違点をチェックし、リスクを最小限に抑えた書式を選ぶことが容易になります。

 

また、研究開発などデータ解析がメインの業務でも、同じ入力に対して得られる複数の計算結果を比較することで、誤差の大きい結果を除外できる利点があります。

 

ただし、回答を数多く生成するため、一定の計算リソースと時間が必要になるケースもあるため、導入の際は処理コストとのバランスを考慮する必要があります。


Tree of Thoughtsプロンプティング

Tree of Thoughtsプロンプティングは、情報やアイデアを階層的に整理しながら、複雑な計画立案や意思決定を支援する手法です。

 

具体的には、問題を大きな枝として捉え、その下にサブ課題や選択肢をツリー構造で展開し、最終的な結論へ導く流れをAIに促すことができます。

 

従来の文章形式のプロンプトでは把握しにくかった関係性や依存関係を、視覚的かつ論理的に示すことで、AIの思考過程を整理しやすくしているのが特徴です。

 

たとえば、新商品のコンセプト立案において、ターゲット選定や技術面での検討項目、競合他社との差別化ポイントなどをツリー構造で並列に示し、その下位階層に具体的な戦略やメリット・デメリットを提示すると、AIが幅広い角度からアイデアを出しやすくなります。

 

また、クリエイティブ分野でも、ストーリーボードの作成時に登場人物や展開を階層的に記述すると、意外性のある展開をAIが提案してくれることがあります。  


ReActプロンプティング

ReActプロンプティングは、「推論→行動→観察」のサイクルを明確にプロンプトへ組み込むことで、高度なタスクを遂行できるようにする手法です。

 

たとえば、マーケティング戦略の立案をAIに支援してもらう際、まず仮説を立てる「推論」のプロセスをプロンプト化します。次に、その仮説に基づいて具体的なマーケティング施策を実行する「行動」のステップをAIに提案させ、最後に得られた結果を評価・分析する「観察」を繰り返す形です。

 

これを継続的に行うと、AIはフィードバックを踏まえて次の施策をさらにブラッシュアップするため、一連の戦略が段階的に洗練されます。

 

外部データとの連携が行える場合は、顧客管理システムや在庫情報などの実績値を参照しながらリアルタイムに施策を修正できるため、より実践的な成果が得られやすくなります。

 

プロジェクト管理やタスク管理にも有効で、AIが各段階での進捗状況を追跡し、次に必要な行動を示してくれるため、チーム全体の生産性向上にも役立つでしょう。

 

ただし、各ステップで十分に情報を整理して渡さないと、誤った推論や施策が導かれる可能性もあるため、プロンプトエンジニアは入念なシナリオ設計と検証を行う必要があります。


知識生成プロンプティング

知識生成プロンプティングは、質問や指示に先立って必要となる関連知識を明示的に提示し、AIがその情報を前提として回答を生成する手法です。

 

たとえば、医療現場で特定の症例に関する新しい研究データをAIに共有し、それを踏まえて患者への処方提案を作成させる、といった活用も考えられます。法務分野でも、契約書の基礎知識や関連する法令を初めに提示すれば、より正確な文章を生成しやすくなるでしょう。

 

このように、高度な専門知識が要求されるタスクほど、知識生成プロンプティングの効果が際立ちます。

 

教育の分野でも、授業内容や教科書の要点をプロンプトとして与えておけば、AIが学生に合わせた問題や復習ドリルを作成してくれます。結果として、学習効率が向上し、教師の負担軽減にもつながります。

 

注意点としては、提供する知識が不十分だったり間違っていたりすると、AIの回答自体も誤りを含む可能性があるため、信頼できる情報源を選定するプロセスが重要になります。生成AIの回答を正しく評価することも重要です。

 

加えて、与えた知識をどの程度まで活用して回答するかを制御するためには、プロンプトエンジニアの調整スキルが不可欠です。


プロンプトエンジニアリングができる人材の育成方法

生成AIを導入しても、それを活かす人材がいなければ本来のポテンシャルを発揮できません。そこで、プロンプトエンジニアリングのスキルを持つ人材を育成することが、企業の競争力を高めるための重要課題として浮上しています。

 

以下は、プロンプトエンジニア人材を育成する主な方法です。

●   生成AIの基礎知識を身につける
●   企業ニーズに応じたスキル開発をする
●   実践的なハンズオン形式で学ぶ
●   応用力を向上させる
●   外部研修を活用する

 

こうした取り組みにより、個々の担当者だけでなくチーム全体でプロンプトエンジニアリングのレベルを底上げし、最終的に企業全体でのAI活用効果を最大化できます。

 

最終的には、こうした一連のプロセスにより、プロンプトエンジニアリングが組織文化として根付くことが理想と言えるでしょう。


生成AIの基礎知識を身につける

AIを扱う上で最初に必要となるのが、生成AIの基礎的な仕組みや限界を理解することです。

 

たとえば、トランスフォーマーや注意機構(Attention)などの概念をある程度理解しておけば、プロンプトがどのように解釈され、回答がどんな形で生成されるかをイメージしやすくなります。

 

また、大規模言語モデルが学習に用いたデータセットの特性を把握しておけば、どのような分野に強みを持ち、逆にどの分野では知識が浅いかなどを推測できるでしょう。

 

さらに、生成AIには事実誤認や差別的な表現などが混じるリスクもあるため、取り扱う際に注意すべき点も学習しておく必要があります。

 

こうした基礎知識は、実際にプロンプトを組み立てるときだけでなく、運用上のルール作りやクレーム対応などの面でも役立ちます。

 

AIの原理と限界を理解することで、精度の高いプロンプト設計が可能になり、余計なトラブルを防ぐことにもつながります。そのためには、ロジカルな思考と柔軟な想像力も求められるでしょう。


企業ニーズに応じたスキル開発をする

一口にプロンプトエンジニアリングといっても、製造業、金融業、小売業、サービス業など業種によって求められる知識やスキルは異なります。

 

たとえば、製造業では生産ラインの最適化や品質管理の分析を行うAIプロンプトが必要とされる一方、金融業ではリスク評価や不正取引検出といった専門性の高いタスクに適したプロンプトが求められます。

 

こうした業界別の要件を踏まえ、現場が抱える問題を洗い出し、それに即したプロンプトを開発することが重要です。

 

各領域のスペシャリストがプロンプトエンジニアリングを身につけることで、より実務に特化したプロンプトを開発することができます。その結果、組織内での専門知識が蓄積されるようになります。

 

さらに、プロンプトライブラリやナレッジベースを整備し、成功事例を共有する文化を育むことで、ノウハウの再利用と水平展開が容易になります。そして、企業が新たなタスクを追加するときも、既存のプロンプトを改変するだけで対応できるようになり、トライアンドエラーの時間とコストを削減できるでしょう。

 

自社の課題やニーズに合わせたプロンプト設計ができるようになれば、業務効率化や新規事業開発にも役立ちます。


実践的なハンズオン形式で学ぶ

座学だけでプロンプトエンジニアリングを理解するのは難しいため、実践的なハンズオン形式の学習が不可欠です。具体的には、実際の業務シナリオを模した課題を用意し、参加者がプロンプトを作成してAIから回答を得るプロセスを何度も繰り返します。

 

その際、間違いやすい点や改善の余地を洗い出し、講師や上級エンジニアがフィードバックを与える形が理想的です。

 

こうした演習を通じて、どのような言い回しや構成がAIにとって理解しやすいか、どの程度の情報量を与えれば的確な答えが返ってくるかといったノウハウが身につきます。

 

また、回答が思わしくない場合にプロンプトを修正する手順を学ぶことで、アジャイル的にAI出力を改善するスキルも鍛えられます。

 

企業によっては、研修の一部として社内の実データを用いた演習を行うケースもあり、その場合は即戦力として成果が期待できるでしょう。

 

さらに、ハンズオンの経験を積むと、自然言語で指示する際の曖昧な表現やバイアスに気づく感度が高まるため、プロンプトの品質を継続的に向上させることが可能になります。  


応用力を向上させる

プロンプトエンジニアリングを一度学んだだけでは、複雑なタスクや新しいAIモデルにうまく対応できない場合もあります。そこで重要なのが、応用力を磨く継続的な学習と経験の蓄積です。

 

具体的には、多段階指示や条件付き出力などより高度な手法に挑戦し、少しずつ応用範囲を広げるステップが有効です。

 

たとえば、同じタスクに対して複数のプロンプトバリエーションを試して結果を比較検討する方法や、新たにリリースされたAIモデルに対して既存のプロンプトを調整して適用する練習も効果的です。

 

こうした反復練習によって、AIが間違いやすいパターンを把握し、最適化できる目利き力が身につきます。

 

また、企業のDX推進に伴って新しいツールやAPI、クラウドサービスが登場するため、それらの活用方法を取り入れながらプロンプト設計をアップデートしていく柔軟性も欠かせません。

 

実際、生成AIの研究は日進月歩で進んでおり、今後もモデルのアップデートや新たなアーキテクチャの登場が予想されます。そこに対応できるかどうかが、長期的な視点でプロンプトエンジニアとして活躍し続けられるポイントになるでしょう。


外部研修を活用する

社内で完結できる範囲には限界があるため、必要に応じて外部研修やセミナーを活用することも大切です。外部機関の研修プログラムは、基礎から応用まで体系的にカバーしている場合が多く、最新の研究動向や海外の事例など、社内では得られない知見を獲得できるメリットがあります。

 

また、他社の受講者との交流を通じて実務に役立つヒントを共有し合う場にもなり、ネットワーク形成の面でも効果が期待できます。

 

特に、自社の課題と類似したケーススタディが取り上げられている研修を選択すれば、学んだ内容をすぐに実務へ応用しやすくなるでしょう。

 

さらに、オンライン研修やハイブリッド形式での受講が増えているため、地理的な制約が緩和され、忙しい担当者でもスケジュールを調整しやすくなりました。

 

外部から得た知識を社内に持ち帰り、組織全体の教育プログラムと連動させることで、プロンプトエンジニアリングのスキルをより効果的に根付かせることができるでしょう。


生成AIプロンプトを活用した企業事例

ここからは、具体的に生成AIのプロンプトを活用して成果を上げている企業の事例を見ていきます。

●   パナソニック コネクト株式会社
●   株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
●   株式会社pluszero
●   ロート製薬株式会社

 

業種や取り組みの規模は異なるものの、それぞれが生成AIに対して巧みなプロンプトを設計することで、業務効率や新規サービス創出に成功している点が共通しています。

 

これらの事例からも、プロンプトエンジニアリングが単なる技術的なオプションではなく、企業全体のDXを推進しビジネスモデルを変革する原動力になり得ることがうかがえます。  


パナソニック コネクト株式会社

パナソニック コネクト株式会社は、生成AIを活用し始めて1年が経過した段階で、大幅な業務効率化と新規活用アイデアの創出に成功したと公表しています。

 

製造プロセスの最適化や品質管理の精密化など、実際の現場でAIが支援する場面を増やしたことで、人員不足やコスト増加の懸念が緩和されました。

 

特筆すべきは、現場のスタッフとプロンプトエンジニアが協力してプロンプトを共同開発した点です。工場や研究所から寄せられる多様な要望を一元化し、それぞれの要件を反映したプロンプトテンプレートを構築することで、専門知識がなくてもAIを活用できる体制を整備しました。

 

参考:パナソニック コネクト株式会社「パナソニック コネクト 生成AI導入1年の実績と今後の活用構想」


株式会社ふくおかフィナンシャルグループ

株式会社ふくおかフィナンシャルグループは、融資業務のスピードと正確性を両立させるためにAIを導入し、基幹の融資プロセスにおいて審査資料の作成やリスク評価の一部を自動化しました。

 

このシステムが機能する背後には、金融特有の要件を正確に反映したプロンプトエンジニアリングが欠かせません。

 

具体的には、顧客属性や財務データ、過去の貸出実績などをAIに渡す際、情報のフォーマットや優先順位を細かく定義し、回答を導くための誘導を行っています。これにより、AIが曖昧な解釈をしにくくなり、より精度の高いリスク分析を提供できるようになりました。

 

その結果、従来に比べて審査時間が短縮され、顧客への回答も早くなり満足度向上にもつながっています。

 

参考:日本アイ・ビー・エム株式会社「基幹の融資業務で生成AIを活用|ふくおかフィナンシャルグループのDX最前線 第一弾」


株式会社pluszero

株式会社pluszeroでは、「人に寄り添いながら効率的に対応するAIオペレータ」と「和製Digital Human」の開発プロジェクトに取り組んでおり、その基盤技術として自社開発の大規模言語モデルと画像系生成AIを駆使しています。

 

ここでもプロンプトエンジニアリングが大きな役割を果たしており、ユーザーとの対話における言い回しや反応速度、感情表現などを細かく設定し、AIが自然かつ的確に応対できるよう調整しています。

 

特に注目すべきは、対話フローの中でユーザーの意図を汲み取り、適宜追加質問を行って情報を深掘りする仕組みをプロンプトレベルで制御している点です。

 

これにより、AIが一方的に回答するだけでなく、ユーザーが本当に求めている情報を引き出す「共感型のやり取り」を実現しています。

 

参考:株式会社pluszero「「人に寄り添いながら効率的に対応するAIオペレータ」と 「個別の外見・人格を持つ和製Digital Human」を開発開始 ~独自の次世代AI 技術AEI・大規模言語モデルLLM・画像系生成AIにより実現を目指す~」


ロート製薬株式会社

ロート製薬株式会社では、プロンプトエンジニアリングをさらに高度な段階へ発展させる「生成AI活用2.0」を目指しており、今後は研究開発からマーケティング、顧客サポートまで一貫してAIにサポートさせる体制を構想しています。

 

実際の運用例としては、研究データの分析や治験結果の要約をAIに任せるだけでなく、新商品コンセプトを考える際にAIの提案を積極的に取り入れるなど、部門を横断する形で導入が進んでいます。

 

とりわけ、医薬品や化粧品など幅広い商品ラインナップを扱う中で、各カテゴリの専門知識をプロンプトに反映させることで、精度の高い情報抽出を実現しました。

 

さらに、生成AIを活用することでユーザーコミュニケーションの向上や最新の研究成果への迅速な対応が期待できるため、プロンプトエンジニアリングが新たな価値創造の軸として機能する可能性が高まっています。

 

参考:株式会社マクニカ「生成AI活用2.0 ~プロンプトエンジニアリングからその先へ~」


ビジネスにおけるプロンプトエンジニアリングの展望

今後、生成AIの技術がさらに進化していくにつれ、プロンプトエンジニアリングの役割もますます重要度を増すと見られています。市場分析やアイデア創出をはじめ、社内の煩雑なレポート作成や顧客対応など、定型・非定型を問わず幅広い業務で導入が拡大するでしょう。

 

また、パーソナライズドなサービス提供が求められる時代背景から、AIが顧客ごとの文脈や嗜好を深く理解するための緻密なプロンプト設計が欠かせません。

 

さらに、クラウド技術やAPI連携が進展することで、外部データを大規模に取り込んだ高度な意思決定支援も実現しやすくなります。

 

その一方で、情報の正確性やコンプライアンスを担保するため、AIの出力を監督するプロンプトエンジニアの責任や倫理観がより重視される時代になるでしょう。

 

企業が持続的に成長するためには、AI活用と人間の創造力を融合させる組織体制が重要となります。その基盤を支えるのがプロンプトエンジニアリングであり、これを自社のDNAとして根付かせることで、新興スタートアップから大企業まで、一段と強い競争力を手に入れることが期待できます。