コボットとは?協働ロボットのメリットや導入ポイントと企業事例を紹介

様々な要因により「労働力不足」が深刻化してきており、それを解決する手段の一つとしてコボット(協働ロボット)が注目され始めています。
生産・物流・医療などの現場でコボットを導入している事例も増えてきており、コボット導入には多くのメリットがあります。一方、導入に関しては注意点の理解も必要です。

 

そこで本記事では、コボットの概要、導入メリットや注意点、導入時のポイントなどを解説します。


▶記事監修者:濱田 金男氏
高崎ものづくり技術研究所

大手電機メーカーで設計、製造、品質管理に長く携わり、中国工場立ち上げ、韓国での生産ライン効率化など海外支援実績も多数。
新しい時代を見据えたデジタル化による工場改革、付加価値向上と人材育成で、ものづくりの現場をサポートしている。



コボット(協働ロボット)とは?

協働ロボットは、英語で「Collaborative Robot」と呼ばれ、「Cobot(コボット)」とも略される次世代型の産業用ロボットです。

 

従来の大量生産向けロボットが、安全柵の中で高速かつ高精度の作業を担う一方、人間との接触を前提としていない構造だったのに対し、コボットは人と同じ空間で稼働できるよう高性能センサーや衝突検知機能を備えています。

 

万が一人や物に接触しそうな場合でも、速やかに動作を制御する仕組みが整っているため、安全柵が不要なケースも多いのが特徴です。

 

さらに、「協働」という概念が示すように、単なる全自動化ではなく、人の判断力や細やかな作業を残しつつ、ロボットの高い反復精度や持続力を活かす作業スタイルを追求しています。

 

少子高齢化に伴う労働不足や、安全性への関心が高まる中で誕生したコボットは、柔軟性にも優れており、多品種少量生産や頻繁な工程変更が必要な現場でも導入しやすいと注目されています。

 

大規模な生産ラインだけでなく、中小規模の工場や限られたスペースでも容易に設置できる点も大きな魅力です。  


従来の産業用ロボットとの違い

従来の産業用ロボットは大量生産を前提とした高速・高精度動作が強みですが、導入時には大きな安全柵や複雑なプログラミングが必要で、レイアウト変更がしにくいという課題がありました。

 

これに対して協働ロボット(コボット)は、小型・軽量で運搬や設置が容易であり、既存のラインに組み込むのも比較的スムーズです。ダイレクトティーチングなど直感的な操作が可能な機種も多く、専門知識の少ない作業者でも短期間で操作を覚えやすい特徴があります。

 

さらに、コボットは高度なセンサーやAI技術を活用し、周囲の状況をリアルタイムで感知して動作を制御します。万が一のトラブルや予期しない動作にも柔軟に対応できるため、単に高速稼働を追求するだけでなく、安全面や使い勝手を重視する現場からの需要が高まっています。

 

導入コストも抑えやすく、生産ライン全体を一度に自動化するのではなく、まずは一部の工程から始める「スモールスタート」にも適している点が、中小企業にとっても大きなメリットとなっています。  


コボットが注目される背景

コボットが広く注目を集める要因のひとつは、日本を含む先進国で顕著な少子高齢化です。

 

労働力が不足する現場では、危険作業や重労働をロボットに任せ、担当者の安全性と負担軽減を両立するニーズが急速に高まっています。

 

また、力制御技術や衝突検知センサーの進化により、人との近接作業でも安全を確保できるようになりました。さらに、製品ライフサイクルが短くなる傾向の中、多品種少量生産への適応力が重要視されるようになり、レイアウト変更に対応しやすいコボットは高い評価を得ています。

 

導入段階でのハードルも下がりつつあり、企業規模にかかわらず検討が進んでいます。サービス業や介護施設など、これまでロボット導入が想定されていなかった分野でも、業務効率化や人材確保の観点からコボットに注目が集まっており、用途の幅が広がっているのが現状です。  


コボット(協働ロボット)を導入するメリット

協働ロボットを導入することで、人とロボットが協力しながら現場の課題を解決する道が開かれます。ここでは、特に注目される5つのメリットについて詳しく解説します。

●   生産性の向上
●   労働環境の改善
●   コスト削減
●   多品種少量生産が可能
●   属人化の解消

 

これらのメリットを理解することで、単なる業務効率化だけにとどまらず、優秀な人材を確保しつつ組織全体の収益性を改善することができます。

 

また、コボットの導入は企業の競争力強化という観点からも、今後欠かせないものとなるでしょう。


生産性の向上

コボットは休憩や労働時間の制限がないため、24時間連続稼働が可能です。さらに、疲れを知らず四六時中同じペースで作業を継続できるため、生産性を大幅に向上させられる点も大きな魅力です。人間が不得手とする単調な繰り返し作業や高精度が要求される工程を担わせることで、全体の稼働効率を大幅に引き上げられます。

 

また、人が作業するとばらつきが出やすい品質面も、ロボットの精密動作に任せることで安定させやすくなり、不良率を低減しやすいメリットもあります。コボットは一定の動作を正確に繰り返すことができるため、製品品質の均一化と安定化が実現できるのも大きな強みです。その結果、製品の品質向上にとどまらず、納期の短縮やクレームの減少といった効果を期待できます。

 

一方で、人間はより付加価値の高いタスクや最終的なチェックにリソースを振り向けられるため、人的資源を有効活用しながら組織全体のパフォーマンスを高められるでしょう。加えて、単純作業をコボットに任せることで、人材をより高度な業務や創造的な業務に配置転換することも可能になり、企業としての競争力強化につながります。  


労働環境の改善

製造現場や物流倉庫などでは、長時間の立ち作業や重い部品の取り扱いが常態化している場合も珍しくありません。コボットを導入すれば、そうした単調で負担の大きい工程をロボットが代替できるため、作業者の肉体的・精神的ストレスを軽減できます。

 

また、従来のロボットでは安全柵の設置が必須で、作業者が動線を分ける必要がありましたが、コボットなら人と同じ空間で作業を行っても衝突リスクを低く抑えられる設計が多く採用されています。これにより、スペースを有効活用しつつ、安全性を向上できる点も大きな利点です。

 

職場環境の改善は、従業員のモチベーションや離職率の低下につながるだけでなく、採用活動にもプラスに働きます。働きやすい現場として評価されれば、優秀な人材を確保しやすくなる可能性も高まります。  


コスト削減

協働ロボット導入によるコスト削減効果のポイントとしては、まず人件費の圧縮が挙げられます。残業代や夜勤手当といったコストが減らせるうえ、ロボットが定常的に高精度の作業を続けることで、不良品による材料ロスや再作業の手間も減らせます。

 

さらに、一部の工程から導入して徐々に拡大するスモールスタートが可能なため、初期投資リスクを抑えつつ導入効果を検証できる点も魅力です。これは、中小企業を中心に投資回収期間を見据えながら段階的に自動化を進めるうえで特に有効なアプローチと言えるでしょう。

 

また、コボットの小型化・低価格化が進んでいることも重要です。過去には高額設備投資がネックとなり導入に踏み切れなかった企業でも、近年の市場拡大に伴う価格競争や補助金制度の拡充により、導入を検討しやすくなっています。 


多品種少量生産が可能

近年、多様化する消費者ニーズに対応するため、多品種少量生産やカスタマイズ生産が求められる現場が増えています。

 

従来の産業用ロボットは特定の工程に特化している場合が多く、工程変更が頻発する現場では動作プログラムの書き換えやレイアウト変更に大きなコストがかかりました。

 

一方、コボットは軽量・コンパクト設計を基本としており、作業範囲やプログラムを短時間で調整しやすいのが特徴です。ビジョンシステムやセンサー技術を追加すれば、形状やサイズの異なる製品を自動で認識し、その都度最適なハンドリングを行うことも可能になります。

 

こうした柔軟性により、多品種少量の生産形態であってもロボット導入のハードルを下げ、生産効率と品質保持を両立する道が開かれます。製品の入れ替わりサイクルが短い業種ほど、コボットの機動力が大いに活かせるでしょう。  


属人化の解消

長年の経験によるノウハウや職人技が必要とされる工程では、特定の熟練者に依存しがちです。しかし、当該担当者が不在になると生産効率や品質が低下してしまうリスクがあり、企業としては大きな課題となります。

 

コボットを活用すれば、熟練者の技術やノウハウをプログラム化して標準化できるため、誰でも一定の品質を担保できる作業環境が整います。これにより属人的な業務が減り、体制の強化や人材育成の効率化が実現しやすくなるでしょう。

 

また、コボットは稼働中にさまざまなデータを収集するため、製造ラインを可視化・数値化することも容易です。分析結果をもとに工程を最適化することで、さらなる改善サイクルを回しやすくなり、企業全体の競争力アップにつながります。  


コボット(協働ロボット)の活用事例

コボットは製造業だけでなく、物流・接客・医療など多彩な現場で活用が進んでいます。

 

ここでは、以下の代表的な活用事例を取り上げ、それぞれの企業がコボットによってどのような問題解決を図っているのかを紹介します。

●   株式会社田野井製作所
●   有限会社クズハラゴム
●   株式会社ビックカメラ
●   株式会社ファミリーマート
●   株式会社大阪王将
●   トヨタ記念病院

 

いずれの事例にも共通しているのは、人が本来担うべき高度な判断・コミュニケーション・創造的業務に集中できる環境を作り出すという点です。

 

コボットはあくまでも人間のサポート役として活用されており、安全機能や柔軟性の高さを武器にさまざまな現場で成果を上げています。今後はさらに多岐にわたる領域で、人とロボットの協働が加速していくことが期待されます。


株式会社田野井製作所

自動車部品など金属加工を手がける田野井製作所では、一部工程にコボットを導入することで作業者の負担を軽減し、全体の生産効率を底上げしました。

 

熟練者が長年培ったノウハウをロボットへ落とし込み、単純反復作業を自動化することで、人的ミスを抑えながら高品質の安定供給を可能にしています。

 

導入時には外部インテグレーターと連携し、安全性の検証やシステム連動テストを入念に行った結果、スムーズに運用を始めることができました。中小企業における先進事例として、徐々にコボットを拡充していく段階的導入の成功例としても注目を浴びています。

 

参考:JET-Global「協働ロボット導入の成功事例:田野井製作所とウィングロボティクスの取り組み」

参考:JET-Global「協働ロボット導入の現場から:株式会社田野井製作所が見つけた新たな効率化の道」


有限会社クズハラゴム

ゴム製品の製造は、製品の形状や材質の関係で自動化が難しいとされる分野のひとつです。

 

しかし、クズハラゴムではコボットを導入し、熱をもつ製品の取り扱いや繰り返し作業をロボット化することで、作業者の負担軽減と生産性アップを同時に実現しました。

 

ゴムの弾力特性を考慮した力加減のプログラミングがポイントとなり、破損や変形といったトラブルを減らすだけでなく、製品の均一な品質保持にも繋がっています。結果的に、ライン停止リスクが低減され、労働生産率が1.3倍になっています。

 

参考:ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会


株式会社ビックカメラ

家電量販店というイメージの強いビックカメラですが、物流施設や倉庫作業の分野でもロボットを活用しています。

 

商品仕分けやピッキングといった工程をコボットが担当することで、作業者が少人数でも効率的に多くの荷物を扱える環境を構築しました。

 

重い荷物を扱う場面では、人の負担を大幅に軽減し、ケガやミスを減らせる効果を実証中です。今後は実証結果をもとに、さらなる拡張や他店舗への展開を検討しているとされ、接客部門へのリソース集中やコスト削減など複合的なメリットが期待されています。

 

参考:三菱HCキャピタル株式会社「三菱HCキャピタル、ビックカメラ、山善が物流施設におけるロボットを活用した実証事業を開始」


株式会社ファミリーマート

コンビニの24時間営業体制は、人手不足や深夜シフトの負担が課題となってきました。

 

ファミリーマートでは、新型ロボット「TX SCARA」を一部店舗の経済産業省店に導入し、飲料補充や品出し工程の一部を自動化しています。

 

この取り組みにより、スタッフはレジ対応や接客、店舗管理など付加価値の高い業務に集中しやすくなり、生産性の向上や非接触化、お客さまの利便性向上を加速しました。また、深夜帯の人件費削減とサービス向上を狙うことが可能となっています。

 

参考:株式会社ファミリーマート「Telexistence社新型ロボット『TX SCARA』をファミリーマート経済産業省店に導入」


株式会社大阪王将

外食産業における人材不足や労務負担の軽減を目指し、大阪王将では調理ロボット「I-Robo」を導入しました。

 

人手に頼りがちな餃子や炒め物の工程をロボットがサポートすることで、一定の調理品質とスピードを両立しています。

 

ロボットが加熱時間や温度管理を自動で行うため、スタッフは他の工程や接客に時間を配分できるメリットがあります。実際、混雑時の業務効率が向上したほか、品質のばらつきも抑えられており、新しい飲食業スタイルとしての注目度が上がっています。

 

参考:株式会社イートアンドホールディングス「大阪王将・調理ロボ『I-Robo』導入店舗拡大に向けてモデル店3店舗に導入」


トヨタ記念病院

医療現場でも、スタッフが行ってきた物品搬送や消耗品の補充などをロボット化する動きが広がっています。

 

トヨタ記念病院では、院内の薬品運搬や物資の移動にコボットを導入することで、看護師やスタッフが本来のケアや治療補助業務に集中しやすくなりました。

 

この取り組みは、医療従事者の負担軽減だけでなく、人手不足の緩和や業務効率向上にも繋がっています。また、センサー技術を活用して患者や来院者との接触リスクを下げる安全設計を実装することで、院内の信頼感を維持しながらロボット化を実現している点も注目されています。

 

参考:トヨタ自動車株式会社「ロボットが人の代わりに薬を運搬!」


コボット(協働ロボット)導入のポイント

コボットの導入は、単に機械を導入して設置するだけでは成功しません。自社の課題や現場の状況、スタッフのスキルレベルなどを総合的に見極めたうえで、計画的に進めることが肝要です。

●   導入目的を明確化する
●   自社に適したコボットを選定する
●   設置環境を整備する
●   安全性と法規制へ対応する
●   導入コストと費用対効果の見極め

 

これらコボット導入における主要なポイントについて、ここから詳しく解説します。導入ポイントを正しく理解して、協業ロボットの効果を最大化できるように組織全体で取り組みましょう。


導入目的を明確化する

最初に「なぜ導入するのか」という目的を具体的に定めることが重要です。

 

省人化や省力化、生産性向上、品質安定など、目指すゴールが明確であれば、KPI(重要業績評価指標)や期待される成果を算出しやすくなります。
また、自社の生産ラインや作業工程を洗い出し、どこがボトルネックになっているのかを可視化しておくと、導入によるインパクトを測定しやすいでしょう。

 

完全自動化が難しい工程も少なくないため、人とロボットの協働体制をどのように構築するか、戦略的に検討することが求められます。

 

なお、コボットを導入する一般的な流れとしては以下のようになります。

 

  1. 導入目的の明確化
  2. 現場調査と課題分析
  3. コボットの種類選定
  4. システムインテグレーターの選定
  5. 導入シミュレーションと費用対効果の検証
  6. 小規模な試験導入
  7. 本格導入と運用開始
  8. 定期的なメンテナンスと評価
  9. 従業員教育
  10. 抵抗感を減らすための取り組み

 

目的の明確化は最初の大切なステップです。


自社に適したコボットを選定する  

コボットにはさまざまなモデルがあり、可搬重量、リーチ(作業範囲)、操作性、安全機能などが異なります。さらに、構造の違いによって単腕型や双腕型、6軸アーム型などがあり、動作の自由度や設置スペース、作業範囲の広さがそれぞれ異なるため、導入前に作業環境との相性を見極めることが重要です。

 

機能面でも組立、搬送、検査、研磨・バリ取り、溶接・塗装、マシンテンディングなどに特化したモデルが存在し、自社の生産ラインに適した特性を持つロボットを選ぶことで、高い効率化が期待できます。

 

作業内容に合わない機種を導入すると、性能を十分に発揮できず、コストパフォーマンスも悪化してしまう恐れがあります。

 

そこで、まずは扱う製品や工程に必要なスペックを明確化し、安全機能やプログラミングの難易度、メンテナンス性なども総合的に検討することが大切です。

 

メーカー独自のプログラミング言語や、産業用ロボット向けの標準的な言語を使う場合もあるので、現場スタッフのスキルや教育時間を考慮したうえで、GUI操作やダイレクトティーチングに対応した制御システムを選ぶと運用しやすくなります。

 

また、衝突検知や力制御機能といったセンサーを備えたモデルは、安全性を確保しながら安心して運用できる点で大きなメリットがありますし、エンコーダや加速度センサーなどの内部センサーによってロボットの動きを正確に制御することも可能です。

 

ビジョンシステムを組み合わせれば、カメラや3Dスキャナーによる画像認識を通じて位置や形状を自動判別し、多品種少量生産や高精度が求められる工程にも柔軟に対応できます。

 

たとえば、初心者でも短期間で扱えるダイレクトティーチング対応の機種を選べば、現場スタッフが抵抗なく受け入れやすくなるでしょう。

 

また、力覚センサーや衝突検知の機能を活用すれば、人との協働を前提とした安全性の高い運用が実現できます。こうした周辺技術や制御システムを踏まえながら最適なロボットを導入すれば、コボット本来の性能を十分に引き出し、生産性向上や作業負荷の軽減といったメリットを最大化できます。 


設置環境を整備する

コボットを導入するにあたり、作業スペースや電源・エア供給などのインフラ面、周辺機器との連動が可能かどうかを確認しましょう。

 

特に、ロボットアームが大きく動く場合には、周囲に十分な安全領域を確保しなければなりません。

 

また、工程全体を見渡して、コボットが停止した際に他の作業が滞らないようにする工夫も必要です。部分的な導入であれば、最初に適用する工程と既存ラインの連携をスムーズに行い、徐々に範囲を広げることでリスクを抑えた導入が可能となります。

 

労働安全衛生法などの規制に基づき、必須の安全評価を実施することも忘れてはなりません。 


安全性と法規制へ対応する

協働ロボットは人との近接作業を想定しているため、ISO/TS 15066をはじめとする安全規格への適合が重要視されますが、日本国内においてはJIS B 8433-1や労働安全衛生法の規定を遵守し、安全認証の取得や厚生労働省が提示しているガイドラインなども併せて確認する必要があります。

 

メーカーのカタログや仕様書に基づき、安全装置や衝突検知機能がどの程度充実しているか、現場環境でのリスクは十分に低減できるかをしっかり確認しましょう。

 

非常停止ボタンやセーフティレーザースキャナーの設置はもちろん、導入時には法規制に沿って検査・申請を行うことも求められ、電波による通信機能を備えた機種を導入する場合は電波法への適合もチェックしなければなりません。

 

安全認証取得のプロセスでは、ISO/TS 15066に準拠した力制御や衝突限界値の設定が適切かどうかを検証するだけでなく、JIS B 8433-1の要件やガイドラインの推奨事項に基づいてリスクアセスメントを実施し、必要に応じた安全措置をとることが重要です。

 

運用開始後も運用マニュアルや安全ルールを作成し、作業者全員がトレーニングを受けたうえで稼働すれば、事故リスクを抑えつつ安定した運用を図れます。

 

参考:厚生労働省「機能安全活用実践マニュアルロボットシステム編」

参考:厚生労働省「産業用ロボットと人との協働作業が可能となる安全基準を明確化しました」


導入コストと費用対効果の見極め

導入コストにはロボット本体の価格や設置工事費、メンテナンス費用、電力消費など、さまざまな項目があり、代表的な協働ロボットの本体価格だけでも数百万円から数千万円程度まで幅広く、主要メーカー(たとえばファナック、安川電機、ユニバーサルロボット、ABBなど)が提供するモデルによってスペックやコストが大きく異なります。

 

双腕タイプや高可搬重量モデルは高額になる傾向があり、導入環境の整備費や安全柵の有無、周辺機器の追加などもトータルコストを左右するポイントです。

 

一方で、人件費や不良品削減によるコスト圧縮効果、24時間運転による生産性向上などのメリットも見込めるため、事前にROI(投資収益率)を計算し、導入の妥当性を検証する必要があります。

 

また、価格がネックとなる場合でも、事業再構築補助金やモノづくり補助金、各自治体の設備導入補助金など公的支援策を活用すれば、初期投資を大きく抑えられる可能性があります。

 

最近は「RaaS(Robot as a Service)」と呼ばれるサブスクリプション型サービスも増えており、月額料金を支払う形で導入リスクを下げながら運用できる選択肢も注目されています。

 

また、単純な人件費削減だけではなく、中長期的な視点で競争力強化や事業発展につなげることが重要です。たとえば、協働ロボットによる品質向上や不良率低減、多能工化推進による人材育成、労働環境の改善といった効果は、間接的なコスト削減にもつながり、将来的な拡張性を見据えた投資判断が求められます。

 

自社の予算や事業計画に合った導入スキームを検討し、初期投資リスクを抑えながら段階的に効果を高めていくのが理想です。


コボット(協働ロボット)の問題点

コボットには多くの強みがありますが、導入にあたっては考慮しておくべき問題点も存在します。以下は、協働ロボットの代表的な問題点です。

●   完全な無人化は困難
●   動作速度と可搬重量の制約
●   専門人材の確保と育成
●   誤作動のリスク

 

ここでは、これらの問題点について詳しく解説します。

 

協働ロボットの問題点や課題を整理して、それぞれに対する注意点を確認し、事前にリスクを把握しておくことで、運用段階でのトラブルを回避しやすくなるでしょう。  


完全な無人化は困難

コボットは人との協働を前提に設計されているため、創造力や判断力が必要な工程をすべてロボットに任せることは難しい面があります。柔軟な発想や臨機応変な対応が必要な工程は、どうしても人の手が欠かせません。

 

そのため、全工程を完全自動化することを目的にコボットを導入すると、期待を外れるケースも出てきます。あくまでロボットと人の得意分野を組み合わせ、効率や安全性を高めるという視点が重要です。

 

どこでロボットを活かし、どこで人間が対応するかを見極めることが、コボット導入成功への近道といえます。

 

ただし、人間との協働作業を行う以上、安全面での規制や基準への適合が不可欠です。労働安全衛生法やISO/TS 15066、JIS規格などの要件をしっかり満たし、適切なリスクアセスメントや安全装置の導入を行わないと、思わぬ事故や生産トラブルにつながるおそれがあります。

 

また、従来の作業方法に慣れた従業員が、コボットとの協働に抵抗を感じることもあるため、現場スタッフへの説明やトレーニングを通して受容性を高める工夫が求められます。


動作速度と可搬重量の制約

人との安全な共存を前提としているコボットは、動作速度や負荷重量に制限が設けられている機種が多いです。一般的なコボットの可搬重量は10~35kg程度で、大型部品や重い荷物の取り扱いには限界があります。

 

安全を優先させるため、従来の高速ロボットのように猛烈なスピードで動作することは難しく、大型の重量物を扱う作業には向かない場合もあります。

 

もし高速性や大きな可搬重量が求められる工程であれば、従来型ロボットや専用のハンドリング装置との組み合わせを検討する必要があるでしょう。

 

また、中小企業がコボットを導入する際には、初期投資額に加えて運用コスト、定期的なメンテナンス費などが大きな負担になることがあります。動作速度や可搬重量の面で適切な機種を選ぶと同時に、どの程度の生産性向上が見込めるかをシミュレーションし、投資回収期間(Payback Period)をあらかじめ試算しておくことが重要です。

 

過度な期待によって高額なシステムを導入してしまうと、実際には回収できないリスクが高まるため、自社の生産規模や作業内容に合致したコボットを慎重に選定する必要があります。


専門人材の確保と育成

コボットは従来の産業用ロボットに比べれば導入のハードルが下がっているとはいえ、やはりプログラミングやトラブル対応にはITスキルや機械知識が必要です。

 

特にトラブルシューティングや定期的なメンテナンスを迅速に行うためには、現場レベルでの知識・経験が求められます。

 

このため、人材確保や社内教育が追いつかない中小企業では、導入後にロボットを使いこなせず稼働率が上がらない事態が発生しがちです。

 

外部のSIer(システムインテグレーター)やメーカーと連携し、トレーニングプログラムを活用しながら、段階的にスキルを吸収していく体制づくりが重要と言えます。

 

従業員がコボットに対して前向きに学べる風土を醸成すれば、単純な人件費削減にとどまらず、将来的な事業発展や多能工化の推進、労働環境の改善といった中長期的な効果も期待できます。


誤作動のリスク

どれほど安全設計が施されていても、プログラムミスやセンサー不良が起これば、生産ラインの停止や予期せぬ動作が発生する可能性があります。

 

特に、他のシステムや機械と連動している場合は、連携がうまくいかないと混乱に陥ることがあるため注意が必要です。

 

また、ネットワークを介して生産設備を管理・監視する場合には、サイバー攻撃や不正アクセスによるセキュリティリスクも考慮しなければなりません。適切なファイアウォールやアクセス制限を設ける、ソフトウェアを最新の状態に保つなど、セキュリティ対策を徹底しておくことが求められます。

 

こうしたリスクを低減するには、運用前のテストやシミュレーション、ソフトウェアの定期アップデートが欠かせません。また、非常停止手順やマニュアルを明確に定め、現場全体で共有しておくことで、トラブル発生時の被害を最小限に抑えられます。


コボット(協働ロボット)の今後の展望

AI技術の進歩によって、協働ロボットはさらなる高機能化が期待されます。自律的に学習し、作業条件の変化に対応するロボットが登場すれば、ティーチング作業やプログラム更新の負担が大きく軽減されるでしょう。

 

そして、農業や建設など、これまでロボット化が困難とされた分野にも活用の幅が拡大すると見込まれています。

 

すでにAmazonでは、多種多様な形状や質感を持つ倉庫内の商品をAIで認識し、正確にピッキングするロボット「Sparrow」を開発・運用しており、デンソーの「Generative-AI-Robot Technology」では、人間との会話から実行タスクをロボット自身が判断して動作する技術が注目を集めています。

 

こうした先端事例は、これからの協働ロボットがさらに知能化・高度化していく可能性を示唆していると言えるでしょう。

 

また、初期投資を抑えて導入する「RaaS(Robot as a Service)」モデルが普及することで、企業は購入費用の負担を大きく軽減できるようになります。

 

矢野経済研究所の調査によれば、2033年の協働ロボット世界市場規模(メーカー出荷台数ベース)は、2024年(見込)比で7.4倍にあたる68万1,021台まで拡大するとの予測が示されており、さらなる技術革新と導入促進が進むことが予想されています。

 

製造業はもちろん、サービス業や医療・福祉分野を含めた幅広い領域で、コボットの存在が当たり前になる未来が見えてきたと言えるでしょう。

 

参考:Amazon「Amazon introduces Sparrow—a state-of-the-art robot that handles millions of diverse products」

参考:DENSO「デンソー、生成AIを活用したロボット「販売員」が人と一緒に働くデモイベントを開催」

参考:株式会社矢野経済研究所「協働ロボット世界市場に関する調査を実施(2024年)」