AI素材を商用利用する前に必ず確認したいチェックリスト
はじめに
生成AIの普及により、専門的な制作スキルがなくてもSNS投稿用の画像やバナー、Webサイトの挿絵などを短時間で作れるようになりました。個人だけでなく企業においても「業務でAI素材を使いたい」という声は増えています。では、こうしたAI素材を商用利用する場合、どのような権利リスクがあるのでしょうか。
本記事では、著作権・肖像権・商標権といった法的リスクの判断基準、利用規約やライセンスの確認手順、そして商用利用前に実施すべきチェック項目を順に紹介しています。AI素材を安全にビジネスで活用するための具体的な対策を確認していきます。
AI素材と商用利用の基本
AI素材の定義と種類
AI素材は、生成AIを使って作られた画像・テキスト・動画・音声などのコンテンツを指します。そういった素材を生み出す生成AIとは、大量の学習データからパターンや構造を見つけ出し、テキスト・画像・動画といった特定の形式でアウトプットを作り出すシステムの総称です。たとえばChatGPTは膨大な文章データで学習した大規模言語モデルであり、Midjourneyは大量の画像データセットで学習したテキストから画像を生成するツールです(参照*1)。
AI素材は用途も多岐にわたります。SNS投稿用の素材、広告バナー、LP(ランディングページ)の挿絵、プレゼン資料のビジュアルなど、業務の中で活用できる場面が広がっています(参照*2)。AI素材の種類と用途を把握したうえで、それぞれにどの権利リスクが関わるかを整理することが商用利用の第一歩となります。
商用利用で問われる法的権利の全体像
AI素材を商用利用する際に問われる法的権利は、著作権だけではありません。企業がAIで画像や音声を利用する場合、他人の肖像権や音声に関する権利を侵害しないかという問題が生じます。生成AIにより個人の肖像や声を精緻に模倣できる現在、これらの権利の保護は課題となっています(参照*3)。
商用利用で問題となる権利は、主に著作権、肖像権、パブリシティ権、商標権、不正競争防止法上の権利に分けられます。著作権においては既存の著作物との類似が、肖像権やパブリシティ権においては実在の人物の顔や声の無断利用が問題となります。商標権の場合は、ブランドのロゴや名称がAI出力に含まれる場合に問題化します。AI素材の商用利用にあたっては、これらの権利を侵害していないか、素材ごとに確認する作業が欠かせません。
著作権リスクの判断基準
類似性と依拠性の二要件
著作権侵害が成立するかどうかは「類似性」と「依拠性」という2つの要件で判断されます。類似性とは、生成された作品が既存の著作物と似ていることです。単に作風が似ているだけでは足りず、その作品ならではの本質的な特徴を感じ取れる場合に類似性が認められます。依拠性とは、既存の著作物を参考にして作られたことを意味し、偶然似ただけであれば依拠性はなく、著作権侵害にはなりません(参照*4)。
文化庁によると、人による創作でも生成AIでも、著作権侵害の判定条件は同じとされています。すなわち、作品の表現の本質的特徴が類似していること、かつ、元作品への依拠があった上で作られていること(偶然の一致ではないこと)の2条件です。生成AIの場合、元作品と酷似した作品が生成されれば、依拠性もありとされる可能性が高いとされています(参照*5)。
実務においては、AI素材が既存の著作物と「作風が似ている」程度なのか、「表現の本質的な特徴が共通している」レベルなのかを見極める作業が求められます。生成後に画像検索などで類似作品の有無を確認し、本質的特徴の一致がないかを点検する手順を業務フローに組み込むことが有効です。
AI生成物に著作権は発生するか
AI素材そのものに著作権が発生するかどうかは、人間がどの程度創作に関与したかによって決まります。人間が創作的な寄与をしない限り、AIが生成したものは著作物にはならず著作権は発生しません。一方で、創作的に寄与した場合、生成物のうちその寄与があった部分だけが著作物として著作権の対象になります。つまり、著作権は創作的に関わった人に帰属します(参照*6)。
この判断基準は、AI素材の商用利用において2つの意味を持ちます。1つは、自社が生成したAI素材に対して著作権を主張できるかどうかの問題です。プロンプトだけで生成した素材は著作権で保護されない可能性が高く、第三者に模倣されても権利を主張しにくくなります。もう1つは、他者が著作権を持つ作品を侵害していないかの確認です。生成後に人間が具体的な加筆や構成の変更を行った部分がどこかを記録しておくことが、権利関係を明確にするうえで有効です。
肖像権・商標権・その他の権利
肖像権・パブリシティ権の注意点
AI素材の商用利用では、著作権と並んで肖像権とパブリシティ権への配慮が欠かせません。生成AIにより個人の肖像や声を精緻に模倣できる現在、模倣された人にとってこれらの保護は喫緊の課題となっています。企業がAIで画像や音声を利用する場合、他人の肖像権や音声に関する権利を侵害しないかが問われます(参照*3)。
実務で行うべき対策は、プロンプトに実在の人物名を入力しないことと、生成された画像が特定の人物を想起させないかを目視で確認することです。著作権法だけでなく不正競争防止法の観点からも問題になり得るため、肖像と声の保護に関するリスク管理の指針を社内で定めておく必要があります。
商標・ロゴ・トレードドレスの扱い
AI素材の中に他社のロゴや商標に似た要素が意図せず含まれるリスクがあります。Getty Imagesは、Stability AIに対して、出力物の一部にGetty Imagesの透かしが変形した形で含まれており、消費者にGetty Imagesとの誤った関連を想起させ、商標の品質を低下させると主張し、提訴しています。同様にNew York TimesはOpenAIに対して、低品質で不正確なChatGPTの出力物にNew York Timesの商標が無断使用されており、商標の品質低下にあたるとして訴訟を起こしています(参照*1)。
生成物を商用利用する前に、ロゴや透かし、特定のブランドを想起させるデザイン要素が出力に含まれていないかを目視で確認する作業が必要です。万が一含まれていた場合は使用を控え、プロンプトを変更して再生成するか、該当部分を除去してから使用することで、商標権に関するトラブルを回避しやすくなります。
利用規約・ライセンスの確認手順
ツール・サービス別の規約差異
AI素材を商用利用する前に、使用するAIツールの利用規約を必ず確認する必要があります。規約を確認し、そのツールで生成したコンテンツを自社で販売できるか、規約違反にならないかを事前に把握しておくことが求められます。生成AIを使って第三者が権利を持つ画像を参考にし、それに類似する画像を作成・販売した場合、著作権侵害に該当する可能性もあります(参照*7)。
ツールによって商用利用の可否や条件は異なります。たとえばCanvaの無料版では、作成したデザインにオリジナル性が高く十分な改変が加えられている場合に限り商用利用が認められます。単にCanvaの素材をそのまま使ったり、最小限の編集しか行っていない場合は、商用利用は許可されません(参照*8)。
一方、デジタル庁が提供するデザインシステムのイラスト・アイコンアセットは、どなたでも複製・公衆送信・翻案等を自由に利用でき、商用利用も可能です。アセットを利用した場合、利用規約に同意したものとみなされます(参照*9)。ツールごとに規約の内容は大きく異なるため、商用利用の可否、改変の条件、生成物の権利帰属の3点を規約から読み取る作業を、素材の使用前に行う必要があります。
CCライセンスとオープン素材の留意点
AI素材と組み合わせて使うオープン素材にはCC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンスが付与されている場合があります。CCライセンスがカバーするのは著作権および類似の権利であり、商標権やパテント(特許権)、第三者のパブリシティ権・人格権・プライバシー権はライセンスの対象外です。ただし、ライセンス提供者自身が保有する人格権やパブリシティ権などは、ライセンスされた権利の行使に必要な範囲に限って、主張しないことに同意する仕組みになっています(参照*10)。
つまり、CCライセンスで許可された素材であっても、そこに写っている人物の肖像権や、含まれるロゴの商標権については別途確認が必要です。CCライセンスの条件(帰属表示の要否、改変の可否、商用利用の可否)を確認したうえで、著作権以外の権利にも問題がないかを素材ごとに点検する手順を設けておくことが、オープン素材を安全に商用利用するための前提となります。
商用利用前のチェックリスト
権利関係の確認項目
AI素材を商用利用する前に確認すべき権利関係の項目を、以下のリストにまとめます。
- 作品名・作者名・キャラクター名をプロンプトに入れていないか
- 生成後に人間の手で加筆や構成変更を行ったか
- 類似チェック(画像検索など)を実施したか
- 学習素材の出所を確認したか
- 商用利用が認められ、権利関係が明確なAIツールを使っているか
- 利用範囲(用途・地域・期間)を明文化したか
- トラブル発生時の初動対応(削除・差し替え・連絡方針)を決めてあるか
この7項目は、AI素材の商用利用における実践的な指針として示されているものです(参照*2)。とくに項目1と項目5は、プロンプト作成時とツール選定時という早い段階で確認できるため、制作フローの最初に組み込んでおくことで、あらかじめリスクを防ぐことができます。
類似チェックと社内レビュー体制
類似チェックと社内レビュー体制を用意することで、著作権侵害のリスクを抑えやすくなります。こども家庭庁の事例では、生成されたイラストが既存の著作物に類似するリスクに対し、固有名詞を含まないプロンプトを作成することで対応しました。これにより既存の著作物に似たイラストが生成される可能性を低減できたとしています。さらに、生成された画像について画像検索を行い、類似の著作物が存在するかどうかを確認することで著作権侵害のリスクを抑えたと報告しています(参照*11)。
オリジナル性の評価基準として、複数の素材を創造的に組み合わせているか、新しいクリエイティブ作品として成立しているか、画像・動画・テキスト等を複合的に活用しているかという観点が挙げられます。反対に、フィルターのみの適用、色変更やサイズ変更のみ、単純な切り抜きや最小限の装飾にとどまっている場合は、十分な改変とは見なされません(参照*8)。
社内レビュー体制としては、プロンプト設計・生成・類似チェック・最終承認の各段階で担当者を分け、1人の判断に依存しない仕組みを構築することが有効です。類似チェックの結果と改変の記録をセットで保存しておくことで、万が一の指摘を受けた際にも対応の根拠を示せます。
生成AIコンテンツ販売で注意したい権利侵害リスクと回避策
コンテンツ販売プラットフォームの中には、既存のアニメ・漫画のキャラクターをプロンプトに含めてそのまま、あるいは似た形で再現された生成物の販売を明確に禁止している場合があります。特定の写真作品やイラストと同一・類似するコンテンツの生成販売、実在の人物の肖像権を侵害するコンテンツの生成販売も禁止事項となっています(参照*7)。
AI生成物は、AIが学習したコンテンツを複合している面があり、既存作品と類似したものが生成されることがあります。この場合、その生成物の利用が既存作品の権利を侵害しないかが問われます(参照*12)。回避策としては、プロンプトから固有名詞を排除すること、生成後の類似チェックを徹底すること、販売先プラットフォームの禁止事項を事前に確認することの3つを組み合わせる対応が求められます。
一方で、権利者側がAI利用に対してライセンスを提供するビジネスも出てきています。コンテンツを保有する権利者がAI開発者や利用者に対し有償で利用機会を与えてビジネス化するという流れが生まれるかどうかに関心が集まっています(参照*6)。こうした動向を把握しておくことも、将来のリスク管理に役立ちます。
おわりに
AI素材の商用利用では、著作権の類似性・依拠性の判断、肖像権・商標権の確認、ツールごとの利用規約の精読、そして社内レビュー体制の構築を組み合わせて対策する必要があります。どれか1つの確認が抜けるだけで、意図しない権利侵害につながるリスクが残ります。
本記事で取り上げた7つのチェック項目と類似チェックの手順を社内の制作フローに組み込み、プロンプト設計から最終承認までの各段階で権利リスクを確認する運用を定着させることが、AI素材を安全に活用するうえでの基盤となります。
参照
(*1) Default – AI Liability for Intellectual Property Harms | Lawfare
(*4) 生成AIで作った作品に著作権はある?知っておくべき基本知識|北海道科学大学 – 生成AIで作った作品に著作権はある?知っておくべき基本知識|北海道科学大学
(*5) AIと著作権に関する考え方について|文化審議会著作権分科会法制度小委員会
(*6) 研究員の視点 | NHK放送文化研究所 – 2025年10月 9日 | 研究員の視点 | NHK放送文化研究所
(*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – PIXTA、生成AIによるコンテンツ制作における注意文を公開 | ピクスタ株式会社のプレスリリース
(*8) バンフーオンラインショップ – Canvaの商用利用は可能?利用規約と注意点を徹底解説 | バンフーオンラインショップ
(*9) デジタル庁 – イラストレーション・アイコン素材利用規約|デジタル庁
(*10) Frequently Asked Questions – Creative Commons
