企業が注目するWeb3とは?特徴や活用事例も紹介

最近「Web3」や「ブロックチェーン」という言葉を、目にしたり耳にしたりする機会が増えてきています。
ところが、これら最新のテクノロジーを取り入れつつある企業もある中、その仕組みが難しくて分かりにくいと感じる人や企業も多いです。


そこで本記事では、Web3やブロックチェーンの概要を解説しつつ、Web3導入のメリットや課題、導入事例などを紹介します。


▶記事監修者:沼澤 健人氏
仮想通貨やNFT等、デジタル資産の取引データ管理システムを提供する株式会社Aerial Partners代表取締役

企業として、仮想通貨取引の損益を自動で計算するソフト「Gtax」やWeb3事業者向けの経理サポートツール「Aerial Web3 Accounting(AWA)」などを開発・提供するほか、暗号資産交換業者を中心とする金融機関にシステムソリューションを提供している。個人としても、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)税制検討部会 初代部会長を歴任するなど、会計監査・税務の面からWeb3業界の発展に寄与する活動に従事している。



Web3とは?

Web3とは、インターネットの新たな進化形態として注目を集めている概念です。従来のWeb2.0が中央集権的なプラットフォームに依存していたのに対し、Web3はブロックチェーン技術を基盤とした分散型のインターネット環境を実現します。


この革新的なアプローチにより、ユーザーは自身のデータを完全に所有・管理することが可能です。中央管理者が存在しないため、個人情報の流出リスクが低減され、プライバシーの保護が強化されます。


さらに、Web3は個人間での直接取引を可能にし、仲介者を介さないP2P(ピアツーピア)の経済活動を促進します。


ただし、Web3の普及には技術的な課題や法規制の整備など、乗り越えるべきハードルも存在します。


Web1.0、Web2.0との違い

Web3は、インターネットの進化における次なる段階として注目を集めています。Web1.0、Web2.0との違いを理解することで、Web3がもたらす革新的な変化がより明確になるでしょう。

 

Web1.0は1990年代のインターネット黎明期を指し、主に静的なコンテンツが中心でした。この時代、ウェブサイトは情報を一方的に発信するだけで、ユーザーとの双方向のやり取りはほとんどありませんでした。テキストベースの情報が主流で、個人がコンテンツを作成・発信する機会は限られていました。

 

2000年代に入ると、Web2.0の時代が到来します。SNSやブログの登場により、ユーザーが簡単に情報を発信し、他者とコミュニケーションを取ることが可能になりました。この変化により、インターネットは双方向の対話の場へと進化します。しかし、この時代には大手プラットフォーム企業にデータが集中し、個人情報の管理やプライバシーの問題が浮上しました。

 

そして現在、Web3の時代が始まろうとしています。非中央集権性、透明性、セキュリティの向上などが特徴です。

 

Web3は、従来のプラットフォームに依存せず、ユーザーが主体的にデータを管理できるため、個人情報の保護が強化されます。また、ブロックチェーン技術により、取引の透明性が確保され、データの改ざんも困難になります。

 


Web3の4つの特徴

Web3には主に4つの特徴があり、従来のインターネットを根本から変革し、ビジネスの在り方に大きな影響を与える可能性を秘めています。

●     非中央集権化(Decentralization)
●     相互検証可能な透明性(Transparency)
●     自己主権性(Self-sovereignty)
●     自律性(Autonomy)

 

これらの特徴は、ビジネスにおける信頼性、効率性、透明性を大幅に向上させる潜在力を持っています。

 

企業はこれらの特徴を理解することで、Web3時代における新たな機会を見出すことができるでしょう。


非中央集権化(Decentralization)

非中央集権化(Decentralization)は、データや権限を特定の企業や組織に集中させるのではなく、ネットワーク全体に分散させることを意味します。

 

従来のWeb2.0では、大手プラットフォーム企業がユーザーデータを集中管理し、そこから莫大な利益を得ていました。しかし、Web3では、ブロックチェーン技術を活用することで、ユーザー自身がデータの管理と所有権を持つことが可能になります。これにより、個人情報の流出リスクや、特定企業による独占的なデータ利用を防ぐことが可能です。

 

非中央集権化の重要な側面として、P2P(ピアツーピア)ネットワークの採用が挙げられます。このシステムでは、中央サーバーに依存せず、ユーザー間で直接データをやり取りします。その結果、サービスの耐障害性が大幅に向上し、システム全体の信頼性が高まります。

 

さらに、ネットワークの可用性が向上することで、従来のシステムで問題となっていたダウンタイムも減少します。


相互検証可能な透明性(Transparency)

相互検証可能な透明性(Transparency)は、ブロックチェーン技術を基盤とし、取引や情報のやり取りを透明化することです。


ブロックチェーン上に記録される取引履歴は、ネットワーク参加者全員が共有し、誰でも検証することができます。この仕組みにより、データの改ざんが極めて困難となり、高い信頼性が担保されます。

 

例えば、企業間取引やサプライチェーン管理において、この透明性は大きな価値を持ちます。製品の原材料調達から製造、流通、販売に至るまでの全過程を追跡可能にし、品質管理や偽造品対策に有効活用できるでしょう。

 

さらに、Web3の技術開発がオープンソースで行われていることも、透明性向上に繋がっています。誰でも開発に参加でき、コードを検証できるため、技術自体の信頼性も高まります。この開放的な環境は、開発者コミュニティの活性化を促し、技術革新のスピードを加速させる効果があります。


自己主権性(Self-sovereignty)

自己主権性(Self-sovereignty)は、ユーザーがデジタル世界における自身の存在と情報を完全にコントロールできる概念です。ユーザーが自身のデータを完全に管理できることで、第三者に依存せずにデジタルアイデンティティを確立できます。

 

従来のWeb2.0環境では、個人情報は大手プラットフォーム企業によって集中管理され、ユーザーはその利用方法に対して限られた制御しか持てませんでした。しかし、Web3ではブロックチェーン技術を活用することで、ユーザーが自身のデータに対する完全な所有権と管理権を持つことが可能になります。

 

その結果、個人情報の漏洩リスクが大幅に減少し、プライバシーが強化されます。ユーザーは自身のデータに対するアクセス権を細かくコントロールでき、必要な情報のみを必要な相手に開示することができます。これにより、データの不正利用や意図しない情報の拡散を防ぐことができるでしょう。

 

さらに、自己主権性は新たな経済モデルの可能性も秘めています。ユーザーは自身のデータの価値を認識し、その利用に対して適切な報酬を得ることが可能になります。例えば、マーケティング目的でのデータ提供や、研究機関へのデータ共有などに対して、直接的な対価を受け取ることができるかもしれません。


自律性(Autonomy)

自律性(Autonomy)の中核を担うのが、スマートコントラクトと呼ばれる革新的な技術です。

 

スマートコントラクトは、予め設定された条件が満たされると自動的に実行されるプログラムです。これにより、人間の介在なしに契約や取引が遂行されるため、業務効率が飛躍的に向上し、コストの大幅な削減が実現します。

 

例えば、物流業界では、商品の到着確認と同時に支払いが自動で行われるシステムが構築可能となり、手続きの簡素化と迅速化が図れるでしょう。

 

さらに、スマートコントラクトは、その実行過程がブロックチェーン上に記録されるため、高い透明性と信頼性を確保できます。これは、金融取引や不動産取引など、信頼性が重要視される分野で特に注目されています。

 

自律性のもう一つの重要な側面は、分散型アプリケーション(dApps)の台頭です。dAppsは、中央管理者を必要とせず、ブロックチェーン上で自律的に動作するアプリケーションです。これにより、企業は従来の仲介者を介さずに直接ユーザーにサービスを提供できるようになり、コスト削減と新たな収益モデルの創出が可能となります。

 

例えば、音楽業界では、アーティストが直接ファンに楽曲を販売し、仲介業者への手数料を削減できるプラットフォームが登場しています。これは、クリエイターとユーザーの直接的な関係構築を促進し、新たな価値創造の機会を生み出しています。

 

自律的なシステムの導入は、企業の意思決定プロセスにも大きな変革をもたらします。リアルタイムデータの活用と自動化された処理により、市場の変化に即座に対応できる柔軟性が生まれます。例えば、需要予測に基づいた自動発注システムや、為替レートの変動に応じた価格調整メカニズムなどが実現可能となります。


Web3の技術基盤となるブロックチェーンとは?

Web3の技術基盤となるブロックチェーンは、取引データを「ブロック」と呼ばれる単位で保存し、それらを時系列に沿ってチェーン状に連結する仕組みを持っています。

 

ブロックチェーンの特徴的な点は、各ブロックが前のブロックの情報を含んでいることです。

 

具体的には、各ブロックには直前のブロックのハッシュ値が記録されています。ハッシュ値とは、データを固定長の文字列に変換したものであり、元のデータが少しでも変更されると、全く異なるハッシュ値が生成されます。この特性により、ブロックチェーン上のデータの改ざんが極めて困難になっています。

 

一方で、ブロックチェーン技術にはいくつかの課題も存在します。処理速度の問題、スケーラビリティの制限、エネルギー消費量の多さなどが指摘されています。


ブロックチェーンの種類

ブロックチェーンの種類は、主に以下の3つに分類されます。それぞれの特徴を理解することで、ビジネスにおける最適な活用方法を見出すことができるでしょう。

●     パブリックチェーン
●     プライベートチェーン
●     コンソーシアムチェーン


パブリックチェーンは、最も広く知られているタイプです。このチェーンは、誰でも参加可能で、取引データが公開されているのが特徴です。ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨で広く利用されており、高い透明性と信頼性を提供します。

 

プライベートチェーンは、参加者が限定され、データの透明性は低いものの、承認速度が速いという特徴があります。主に企業内での利用に適しており、セキュリティと効率性のバランスが取れています。プライベートチェーンでは、参加者の管理や権限設定が可能なため、機密性の高い情報を扱う際に有効です。

 

コンソーシアムチェーンは、パブリックチェーンとプライベートチェーンの中間的な位置づけにあります。特定の組織間で運用され、透明性と承認速度のバランスが取れているのが特徴です。例えば、複数の企業や団体が協力して運営する共同プロジェクトなどに適しています。


Web3を導入するメリット

企業がWeb3を導入することは、今までにない革新的なビジネス機会をもたらす可能性があり、そのメリットを理解しておくことは機会を逃さないためにも重要です。

 

Web3の主なメリットとしては、以下が挙げられます。

●     データの所有権がユーザーに戻る
●     取引の透明性と信頼性の向上
●     コスト削減と効率化
●     セキュリティの強化

 

これらのメリットを活かすことで、新しいビジネスモデルを創出したり、グローバルに展開したりといった可能性が開けてきます。また、中小企業でも国際的なビジネス展開のチャンスが広がります。

 

企業はこの変革の波に乗り遅れないよう、Web3の特性を理解し、自社のビジネスモデルにどのように適用できるかを積極的に検討する必要があるでしょう。


データの所有権がユーザーに戻る

Web3では、ブロックチェーン技術を基盤とした分散型システムにより、ユーザーが自身のデータを完全に所有し、管理することが可能です。

 

この変革により、ユーザーは自身のデータがどのように利用されるかを細かく制御できるようになります。例えば、特定の企業やサービスとのみデータを共有したり、データの利用に対して報酬を受け取ったりすることが可能になります。これは、個人のプライバシー保護を強化するだけでなく、データの価値をユーザー自身が享受できるという点でも画期的です。

 

さらに、データの所有権がユーザーに戻ることで、情報の偏りや独占が解消されることも期待されています。現在のWeb2.0環境では、一部の大手企業がユーザーデータを独占的に収集・分析し、それを基に市場を支配する構図が問題視されてきました。Web3では、このような中央集権的なデータ管理から脱却し、より公平で透明性の高いデータエコシステムの構築が可能になります。

 

例えば、医療分野では、患者が自身の健康データを完全に管理し、必要に応じて医療機関や研究機関と共有することができるようになります。これにより、個人のプライバシーを守りつつ、医療の質の向上や新薬開発の促進にもつながる可能性があります。


取引の透明性と信頼性の向上

ブロックチェーン技術を基盤とするWeb3では、すべての取引がネットワーク上に分散して記録されます。この分散型台帳は、参加者全員で共有され、一度記録された情報の改ざんが極めて困難です。これにより、取引の透明性が格段に向上し、不正や改ざんのリスクが大幅に低減されます。

 

例えば、サプライチェーン管理において、原材料の調達から製品の配送まで、すべてのプロセスをブロックチェーン上で追跡することが可能になります。そのため、製品の品質管理や偽造品の防止、さらには持続可能性の証明など、多岐にわたる課題解決に貢献します。

 

また、スマートコントラクトの導入により、取引の自動化と効率化が進みます。例えば、国際取引において、商品の到着が確認されると同時に代金が自動的に支払われるシステムを構築することが可能です。その結果、従来の複雑な決済プロセスが簡素化され、取引の迅速化とコスト削減が実現します。

 

さらに、Web3の特徴である非中央集権性により、取引における中間業者の必要性が減少します。これは、取引コストの削減だけでなく、情報の非対称性を解消し、より公平な取引環境の創出につながります。


コスト削減と効率化

Web3がもたらすコスト削減と効率化は、企業にとって大きな魅力となっています。従来のビジネスモデルでは、取引や契約の際に仲介者が介在し、その都度手数料が発生していました。しかし、Web3の世界では、ブロックチェーン技術とスマートコントラクトの活用により、これらの仲介者を介さずに直接取引が可能になります。

 

この仕組みにより、取引にかかる手数料が大幅に削減されるだけでなく、取引のスピードも飛躍的に向上します。例えば、国際送金の場合、従来の銀行システムでは数日かかっていた処理が、Web3の技術を使えば数分で完了する可能性があります。これは、特にグローバルに展開する企業にとって、大きなコスト削減と業務効率化につながるでしょう。

 

さらに、スマートコントラクトの導入により、契約の自動執行が可能になります。これは、予め設定された条件が満たされると、人の介在なしに自動的に契約が履行される仕組みです。この自動化により、人的ミスの減少、取引の迅速化、そして管理コストの削減が実現します。


セキュリティの強化

Web3がもたらすセキュリティの強化は、従来のインターネット環境とは一線を画す革新的な特徴です。データの分散管理と高度な暗号化技術の組み合わせにより、セキュリティが飛躍的に向上します。

 

まず、Web3の基盤となるブロックチェーン技術により、データは単一のサーバーではなく、ネットワーク全体に分散して保存されます。その結果、従来のシステムで懸念されていた単一障害点のリスクが大幅に軽減されます。つまり、一箇所がハッキングされても、システム全体が危険にさらされる可能性が低くなるからです。

 

さらに、ブロックチェーンの暗号化技術は、データの安全性を高度に確保します。各ブロックは前のブロックの情報を含んでおり、一度記録されたデータの改ざんは極めて困難です。この特性により、不正アクセスやデータ改ざんのリスクが大幅に低減されます。

 

企業にとって、Web3のセキュリティ強化は信頼性向上の大きな機会です。データ漏洩のリスクが低減されることで、顧客からの信頼を獲得しやすくなります。また、セキュリティ対策にかかるコストの削減も期待できるでしょう。


Web3導入の課題

Web3の導入は、ビジネスに大きな変革をもたらす可能性を秘めていますが、同時に多くの課題も存在します。これらの課題を理解して適切に対処することも、企業のWeb3導入にはとても重要です。

 

以下は、Web3導入の主な課題です。

●     高度な技術知識が必要
●     スケーラビリティの問題
●     安定したサービスの提供が困難
●     法的・規制上のフレームワークが未整備
●     セキュリティとプライバシーの課題

 

これらの課題に対処するためには、段階的なアプローチと継続的な学習が不可欠です。企業は、小規模なパイロットプロジェクトから始め、徐々に規模を拡大していくことで、リスクを最小限に抑えつつWeb3の可能性を探ることができるでしょう。

 

また、業界団体や研究機関との連携を通じて、最新の技術動向や規制環境の変化に常に注意を払う必要があります。


高度な技術知識が必要

Web3の導入において、高度な技術知識の必要性は避けて通れない課題です。この新しいパラダイムは、ブロックチェーン技術を中心に構築されており、従来のWeb技術とは根本的に異なるアプローチが求められます。

 

まず、ブロックチェーン技術自体の理解が不可欠です。分散型台帳、コンセンサスアルゴリズム、暗号化技術など、複雑な概念を理解し、実装できる技術者が必要となります。さらに、スマートコントラクトの開発や、分散型アプリケーション(dApps)の設計など、Web3特有の開発スキルも必要です。

 

また、Web3は既存のインフラやシステムとの互換性の問題も抱えています。多くの企業が長年にわたって構築してきたレガシーシステムとWeb3技術を統合することは、技術的に大きな挑戦となります。データの移行、セキュリティの確保、パフォーマンスの最適化など、様々な課題に直面することになるでしょう。

 

特に中小企業にとって、これらの技術的ハードルは高く感じられるかもしれません。限られた予算と人材リソースの中で、Web3に必要な専門知識を持つ人材を確保し、育成することは容易ではないからです。また、急速に進化するWeb3技術に追いつくために、継続的な学習と投資が必要となります。


スケーラビリティの問題

Web3の実現に向けて、ブロックチェーン技術は中核的な役割を果たしていますが、その普及と実用化に向けては、スケーラビリティの問題が大きな課題となっています。この問題は、ブロックチェーンの根幹的な特性に起因するものであり、解決には技術的なブレークスルーが必要とされています。

 

ブロックチェーンのスケーラビリティ問題とは、システムの利用者や取引量が増加した際に、処理速度が低下したり、システム全体のパフォーマンスが悪化したりする現象を指します。この問題は、ブロックチェーンの分散型かつ高セキュリティな性質と表裏一体の関係にあります。

 

また、大量のデータ処理が必要な場合、ブロックチェーンネットワーク全体のパフォーマンスが低下する可能性があります。これは、各ノードがすべての取引履歴を保持する必要があるため、データ量の増加とともにストレージやネットワーク帯域の要求も増大するからです。


安定したサービスの提供が困難

Web3技術の導入を検討する企業にとって、安定したサービスの提供が困難であることは大きな課題の一つです。この問題は、Web3のエコシステムがまだ発展途上にあることに起因しています。

 

Web3技術は比較的新しく、その基盤となるブロックチェーン技術自体も日々進化を続けています。このため、長期的な安定性や信頼性が十分に確立されていないのが現状です。例えば、スマートコントラクトのバグや脆弱性が発見されることがあり、これらが重大なセキュリティリスクにつながる可能性があります。

 

また、Web3プロジェクトの多くがオープンソースで開発されているため、継続的なメンテナンスや更新が保証されていない場合があります。開発者コミュニティの活動が停滞したり、主要な開発者が離脱したりすると、プロジェクトの継続性が危ぶまれることもあります。

 

Web3技術を導入する企業にとって、十分なサポート体制の不足も大きな懸念事項です。従来の技術と比べて、Web3に精通した開発者やエンジニアの数は限られており、問題が発生した際に迅速な対応が困難な場合があります。これは、医療や小売など「24時間365日のサービス提供を求められる」業界にとっては、大きなリスクとなり得るでしょう。


法的・規制上のフレームワークが未整備

Web3技術の急速な発展に対し、法的・規制上のフレームワークの整備が追いついていないのが現状です。この状況は、Web3ビジネスに参入を検討している企業にとって大きな課題となっています。

 

ブロックチェーン技術を基盤とするWeb3は、従来の中央集権型システムとは根本的に異なる仕組みを持っています。そのため、既存の法律や規制では対応しきれない新たな問題が次々と浮上しています。例えば、分散型自律組織(DAO)の法的地位、NFTの著作権問題、暗号資産の税務処理など、従来の法体系では想定されていなかった事象が多数存在します。

 

この法的不確実性は、企業にとって大きなリスクとなります。突如として新たな規制が導入されたり、既存の法律の解釈が変更されたりすると、ビジネスモデルの根幹を揺るがす可能性があるからです。

 

また、法整備の進展度合いがWeb3の普及速度に大きな影響を与えることも予想されます。法的な裏付けがない状態では、多くの企業や投資家がWeb3ビジネスへの参入を躊躇する可能性が高いでしょう。逆に、適切な法整備が進めば、Web3技術の社会実装が加速する可能性もあります。


セキュリティとプライバシーの課題

Web3は、分散型インターネットの実現を目指す革新的な技術ですが、セキュリティとプライバシーに関して新たな課題をもたらしています。これらの課題は、従来のWeb2.0とは異なる特性を持つため、企業やユーザーは新たな対応策を講じる必要があります。

 

Web3では、ユーザーが自身のデータを完全に管理する権利を持ちます。これは、データの所有権がユーザーに戻るという点で画期的ですが、同時にセキュリティのリスクも高まります。従来のシステムでは、中央集権的な管理者がセキュリティ対策を一括して行っていましたが、Web3では各ユーザーが自身でセキュリティを確保しなければなりません。

 

プライバシーの観点からも、Web3は新たな課題を提示しています。ブロックチェーン技術を基盤とするWeb3では、取引の透明性が高まる一方で、個人情報の保護が難しくなる側面があります。ブロックチェーン上のすべての取引は公開され、永続的に記録されるため、一度公開された情報を完全に削除することは困難です。

 

さらに、分散型ネットワークの特性上、データの複製が多数のノードに保存されるため、プライバシー侵害のリスクが増大する可能性があります。例えば、匿名性を保ちつつ取引を行うことは可能ですが、取引パターンの分析などによって個人を特定される可能性も否定できません。


Web3のビジネス活用事例

Web3技術のビジネス活用は、様々な業界で急速に広がりを見せています。従来のビジネスモデルを根本から変革する可能性を秘めたWeb3は、企業に新たな価値創造の機会をもたらしています。

 

ここでは、Web3を活用したビジネスを展開している企業事例を紹介します。

●     株式会社レコチョク
●     株式会社ドリコム
●     東急株式会社
●     日本電気株式会社
●     コナミグループ株式会社
●     KDDI株式会社
●     株式会社デジタルガレージ

 

今後、さらに多くの革新的なアプリケーションが登場し、ビジネスの在り方を大きく変えていくことが予想されます。企業は、これらの技術動向を注視し、自社のビジネスモデルにどのように適用できるかを積極的に検討していく必要があるでしょう。


株式会社レコチョク

レコチョクの取り組みの中核となるのは、NFT(非代替性トークン)の発行・販売プラットフォームの提供です。

 

同社が運営する音楽業界向けECソリューション「murket(ミューケット)」に、NFTアイテムの販売機能を追加しました。この機能の特徴は、ユーザーフレンドリーな設計にあります。特別なツールや技術知識がなくても、アーティストや音楽関係者が手軽にNFTを販売できるよう配慮されています。

 

さらに注目すべき点は、決済方法の簡便さです。一般的なNFT取引では仮想通貨が必要となりますが、レコチョクのシステムでは法定通貨での決済が可能です。これにより、仮想通貨に不慣れなユーザーでも気軽にNFTを購入できる環境を整えています。

 

参考:株式会社レコチョク「レコチョク、Web3.0時代を見据え、ブロックチェーンを活用したビジネスへ本格参入」


株式会社ドリコム

株式会社ドリコムは、ゲーム開発やメディア事業を手がける企業として知られていますが、近年Web3事業への参入を積極的に進めています。同社は、Web3を「トークンを介した形で実現する分散型インターネットサービス」と定義し、この新たな技術がインターネット業界に大きな変革をもたらすと認識しています。

 

ドリコムのWeb3事業への参入は、GameFi(ゲーミファイ)領域から始まっています。GameFiは、ゲーム、ブロックチェーン技術、そしてファイナンスを組み合わせた新しいコンセプトです。同社は、これまでのゲーム開発で培ったノウハウをGameFi領域に活用することで、新たな価値創造を目指しています。

 

具体的な取り組みとして、ドリコムはブロックチェーンゲーム開発会社Thirdverseグループと基本合意契約を締結しました。この協業では、ドリコムが保有する「Wizardry」IPを用いたブロックチェーンゲームの開発が予定されています。このプロジェクトでは、ドリコムがゲーム開発と運営を担当し、Thirdverseグループがパブリッシャーとなる形で進められています。

 

参考:株式会社ドリコム「Web3事業説明資料」


東急株式会社

東急株式会社は、Web3技術を活用した革新的なプロジェクト「Shibuya Q DAO(SQD)」を立ち上げ、注目を集めています。このプロジェクトは、渋谷の街づくりにWeb3の概念を取り入れた先進的な取り組みといえるでしょう。

 

SQDの特徴は、DAOの仕組みを活用して、渋谷の街づくりに多くの人々が参加できる環境を提供している点です。DAOとは「分散型自律組織」の略で、ブロックチェーン上で運営される組織形態を指します。SQDでは、このDAOの概念を都市開発に応用し、従来の企業主導型の街づくりとは異なるアプローチを試みています。

 

プロジェクトの中核となるのは、SQDトークンの発行です。このトークンは、渋谷の街づくりに関する投票権を持つNFT(非代替性トークン)として機能します。トークン保有者は、渋谷の未来に関する様々な提案に対して投票を行うことができ、街の発展に直接的に関与する機会を得られます。

 

参考:東急株式会社「Shibuya Q DAO(SQD)」


日本電気株式会社

日本電気株式会社(NEC)は、Web3技術を含む先進テクノロジーを活用した働き方改革の取り組みを強化しています。この取り組みは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、従業員の生産性向上と新たな価値創造を目指すものです。

 

NECの取り組みの中核となるのは、デジタルIDの活用です。今回導入されたデジタル社員証は、マイクロソフトが提供する分散型ID技術と、NECの生体認証技術が組み合わさっており、次世代の社員証とも称しています。

 

従来の社員証を持たなくても、顔認証で勤務管理や本社ビル売店での購買決済、オフィスでの複合機やロッカーの利用が可能となりました。

 

参考:日本電気株式会社「NEC、デジタルIDや生成AIなど先進テクノロジーによる働き方DXの取り組みを強化」


コナミグループ株式会社

コナミグループ株式会社は、長年にわたりゲーム業界で革新的な製品を提供してきた企業ですが、最近ではWeb3の分野にも積極的に進出しています。その代表的な取り組みが「PROJECT ZIRCON(プロジェクト・ジルコン)」です。

 

このプロジェクトは、従来のゲーム開発とは一線を画す、ユーザー参加型のWeb3プロジェクトとして注目を集めています。PROJECT ZIRCONの特徴は、ユーザーがNFTとしてキャラクターを所有し、そのキャラクターの設定や能力を自ら決定できる点にあります。

 

これにより、ユーザーは単なるプレイヤーではなく、ゲーム世界の共同クリエイターとして参加することが可能です。

 

参考:コナミグループ株式会社「PROJECT ZIRCON(プロジェクト・ジルコン)」


KDDI株式会社

KDDI株式会社は、Web3時代を見据えた新たなサービスプラットフォーム「αU(アルファユー)」を展開し、注目を集めています。このプラットフォームは、メタバースやWeb3技術を活用した多様なサービスを提供することで、デジタル空間における新たな価値創造を目指しています。

 

αUの中核を成すのは、NFTマーケットプレイス「αU market」です。このプラットフォームは、NFTに馴染みのないユーザーでも簡単に利用できるよう設計されており、法人や個人事業主向けにNFT販売機能を開放しています。これにより、アーティストやクリエイターが自身の作品をNFTとして販売し、新たな収益源を確保することが可能になりました。

 

KDDIは、αU marketを通じて様々な企業やアーティストとのコラボレーションを積極的に展開しています。

 

参考:KDDI株式会社「αU(アルファーユー)」


株式会社デジタルガレージ

株式会社デジタルガレージは、Web3時代の新たなコミュニティ形成の場として「Crypto Cafe & Bar」を東京・恵比寿にオープンしました。この施設は、単なるカフェやバーではなく、Web3技術を活用した革新的なメンバーシップ制のスペースとして注目を集めました。

 

Crypto Cafe & Barの特徴は、NFT(非代替性トークン)をメンバーシップとして活用している点です。利用者は、NFTを購入することで施設の利用権を得ることができます。これにより、従来の会員制システムとは異なり、メンバーシップの譲渡や転売が可能となり、より柔軟な利用形態を実現しています。

 

現在は、イベントスペースとしてリニューアルされ、様々なイベントの開催に利用されています。

 

参考:株式会社デジタルガレージ「Crypto Cafe & Bar」

 


Web3がもたらす未来の展望

Web3の特徴的な点は、ユーザーコミュニティがプロジェクトの方向性を決定し、参加者が直接利益を享受できる環境を作り出すことです。これは、従来の中央集権的なモデルとは大きく異なり、ユーザーのエンゲージメントを飛躍的に高める可能性があります。

 

例えば、分散型自律組織(DAO)の概念を活用することで、企業の意思決定プロセスに直接ユーザーが参加し、プロジェクトの成功に向けて積極的に貢献することが可能になります。

 

また、Web3は持続可能なビジネスモデルの構築を促進します。ブロックチェーン技術を活用した透明性の高いシステムにより、企業の社会的責任(CSR)活動や環境への取り組みを可視化し、消費者の信頼を獲得しやすくなります。これは、長期的な経済成長を支える重要な要素となるでしょう。

 

Web3がもたらす未来は、まだ完全に明確になっているわけではありません。しかし、その潜在的な可能性は計り知れず、私たちの社会や経済システムに根本的な変革をもたらす可能性があります。

 

企業は、この変革の波に乗り遅れないよう、Web3技術の動向を注視し、自社のビジネスモデルにどのように適用できるかを積極的に検討していく必要があるでしょう。